―9―-1
『雀荘ドラゴンヘッド』の看板に明かりが灯ったのは、日も暮れかけた午後5時くらいのことだった。
つい10分ほど前に三人の男らが店内へ入っていくのを確認しているので、北条は同行の刑事へ合図を送り、二人して行動を開始した。
薄暗い店の通路はかなり狭くなっており、よっぽどの理由でもないかぎり、一般人が好んで足を踏み入れるとは思えないほど汚れている。
「幽霊屋敷みたいですね」
と愚痴ったのは、北条の前を行く五十嵐(いがらし)という刑事だ。
三十八歳の北条から見たら、七年後輩ということになる。
「さっそく怖じ気づいたのか?」
「いいえ、わくわくしているところですよ」
「相手は幽霊なんかより質(たち)が悪いかもしれないんだ。油断するなよ?」
「もちろんです」
気合いを入れなおしたところで、二人は軽快に階段を上がり、目的の部屋へと踏み込んだ。
学校の教室ほどの広さがある部屋に、点々と雀卓が置かれていて、すでに数人の客が麻雀に興じていた。
看板に明かりがなくても、営業自体はすでにやっていたようだ。
「お楽しみのところ、申し訳ありません。ここのマネージャーに会わせてください」
五十嵐は警察手帳をちらつかせながら、フロア全体に声を響かせた。
客は皆一様にこちらを振り返り、ある者はその目に殺気さえ滲ませている。
間もなく奥のドアが開き、髭面の男が顔をのぞかせた。
そして二人の刑事を睨みつけたあと、こっちへ来いというふうに顎で示し、北条と五十嵐を事務所へ招き入れた。
「我々がここへ来た理由については、説明を省かせてもらいます」
柄の悪い三人の男らを前に、北条は凛とした態度で切り出した。
「俺がマネージャーの馬渕(まぶち)だ」
髭の男が偉そうな口調で名乗る。豪華な椅子に座ったまま、両足を机の上に投げ出している。
北条は一枚の写真をその机の上に出して、
「この女性がここに訪れたことがあるはずなんですが、見覚えはありませんか?」
と馬渕を見下ろしながら尋ねた。
ほかの仲間二人は馬渕の出方を窺っている様子で、なかなか口を開こうとはしない。
「嘘の証言をしても、どうせあとでわかることだ」
五十嵐は、やや強めに警告した。
「この写真の女性、名前は青峰由香里、二十五歳の専業主婦だそうです」
北条が念を押すと、
「確かにここへ来た」
馬渕が口を割った。
「ここへは来たが、ほかの客に混じって麻雀をした、ただそれだけだ」
「じつは彼女、この雀荘を訪れたと思われる翌日の早朝、早乙女町の公園で発見されています」
「だから何だ?」
「しゃべれなくなるほど性的暴行を加えられたあと、ゴミ袋に入れられた状態で放置されていたのです」
北条のこの台詞に、馬渕を含めた三人の顔に動揺の色があらわれた。