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果葬 ―かそう―
【その他 官能小説】

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―8―-3

 こんなことまでしているのだから、アブノーマルな女だという自覚はある。
 しかしこんな体質になってしまったのは、あの事件を体験したからではないのかと、香澄はまた古い記憶を思い起こして遠くを見つめた。

 そんな時、家のインターホンが鳴った。玄関口の小窓に人影がある。
 香澄は、汚れにまみれたこけしを床に置いて、全裸のまま受話器を取った。

「はい」

 と応答しながら壁に寄りかかる。

「宅配便です。花井香澄さんはご在宅でしょうか?」

「私ですけど」

 体育会系の雰囲気のある声を相手に、香澄は気持ちよく応対した。

「印鑑、いただけますか?」

「少しお待ちください」

 香澄は丁寧に受話器を戻すと、さっき脱いだ黒色のワンピースだけを素肌に着せて、印鑑を手に玄関ドアを開けた。

 暖かい陽気を浴びた外の空気が香澄の足首を撫でる。
 宅配業者のにんげんは若い男だった。

「ごくろうさまです」

「こちらに印鑑だけ、お願いします」

 香澄は伝票に押印して、荷物を受け取った。

 たったこれだけのやり取りのうちに、香澄は男の視線を気にしていた。

 前屈みの姿勢で印鑑を押した時には、相手の視線は胸元にあてられていて、だから香澄は胸を手でかばう仕草をした。

 さらに、しゃがんで荷物を受け取った時などは、すり上がったワンピースの裾から中身をのぞき込む男の目に気づき、さり気なく着衣をなおした。

 下着をつけていないことが彼に知られたら、自分はきっとただでは済まないだろう。
 しかも体の芯はまだ興奮が冷めないでいるのだ。

「あのう……」

 と男の口が動く。

 香澄は目の表情だけで、なにか?と聞き返す。

 男は目の前の美人から視線を逸らして、棚のこけしに注意した。妄想はすぐにふくらんだ。

 今ここでこの人を押し倒して、あれを突っ込んだあとで、めちゃくちゃにレイプして気絶させてあげたい。
 それが無理なら、あれを使ってオナニーに狂うこの人の姿を見てみたい。
 いいや、きっとどちらも叶いっこない。
 外見のきれいな女の人はそれなりに節操があって、下手な誘いには見向きもしないだろう。
 自分とは住む世界が違う。そういう目には見えない境界線を踏み越えた時、おそらく自分は犯罪者になっているはずだ──。

「どうかされました?」

 ワンピース姿の香澄に声をかけられて、男はようやく妄想から覚めた。
 みっともない顔をしていたに違いないと思った。

「ありがとうございました」

 男はすぐに仕事の顔を取り戻し、花井家を出た。
 最後に口から出た礼は、妄想のヒロインになってくれてありがとうございました、という意味で言ったつもりだった。


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