神光院謙太の結婚-2
「ただいま!ママ、腹減ったんだけど、なんかない?」
僕がバイトから帰っての第一声、しかしなんの反応もない…。
さて、僕は結婚してから先生のことをずっと『ママ』と呼んでいる。単純に小百合のママだからママ、沙樹と呼び捨てにするのは僕の中で変に思えたし、かといって先生と呼ぶのも他人行儀っぽくてなんかイヤだ…。ということで、『ママ』になった。多少マザコンの気がある僕にはピッタリの呼び方かもしれないなあと自分でも思っていたりする。
「うーん、今日は仕事ないとか言ってたはずなんだけどな…。」
ママは結構忙しい。なにやら芸能事務所とかを立ち上げて、妖しげなビデオを作って売っているらしいが、詳しく知らないし、僕もあまりママの仕事に興味がない。そもそも僕自身、世の中ってのに興味がないのかもしれない…。
「ふぅ、仕方ない。」
僕は冷蔵庫を開けて、中を物色してみるもののなにもありゃしない。仕方ないなと冷蔵庫にあった飲みかけのペプシコーラを飲んでから、僕は二階にある自分の部屋に戻ることにした。
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「ママ、いたの!?しかも、なんで勝手に部屋なんかに入ってるんだよ…!」
部屋に戻ると、そこにママがいた!
「ああ、謙太か。今帰ったのかい?いや、今日は仕事なかったから、たまにはと思ってね、あんたの部屋、掃除しておいてやったよ。」
ママは腰に両手をやってフゥーと息を吐いてから言った。
さて、零細なのか、大手なのかわからんが、ママはともかく社長であることには変わらない。だからだろうか僕から見て、ママは結構逞しい。まさに男勝りって感じの女性だ。僕が幼い頃に見た『先生』とは大違いだった。
これは色々と入ってくる断片的な情報を組み合わせた上での推測なんだか、ママはすげえ苦労したらしい。やっぱ女でひとり、小百合を育てながら仕事もバリバリこなすなんて相当しんどかったらしい。やっぱ、そういう苦労がママをパワフルな女性に変えたんだろうなと思う。まあ、なんつうか、僕が幼いとき出会ったママも別の意味でパワフルではあったんだけどな……。
「しっかし、謙太は自分で部屋の掃除もできないのかい?」
「ごめん、ママ……。」
あきれ顔のママ、しょぼくれる僕。一応夫婦なんだか、僕とママの関係はまんま母親と子供なんだよな…。でも、そんな関係に満足しちゃってる僕もいるんだよ。僕にはまだ夫って関係は無理なんだよと言い訳しつつも、僕とママはずっと母親と子供の関係のままでいたい。
「ああ、それとノートパソコンの電源は切っておきなよ。めんどくさいからって自動ログインにするのは自殺行為だ。それに、外付けにもパスワードしておかないと。」
「ふぇ!?パソコンの中身見たの?」
いきなりのママの言葉に、僕は上擦った声で答えてしまった。
「ああ、見た。謙太、相当歪んだ性欲してるんだな。近親相姦、スカトロ、獣姦、SM、妊婦もの…。ああ、それにどうやって興奮するんだって動画もあったな。セーラー服が燃えているだけの動画、切った包皮を女に食わせる動画、うんこにたまねぎ、卵、パン粉を入れてフライパンで焼く本格的な料理動画もあったな。それに、女性器はなんでも入るドラえもんの四次元ポケットじゃないってツッコミを入れたくなる動画もあったな。いや、いくらなんでも、女性器にボーリングの玉は入らんぞ……?もっとあったぞ。ええっと……。」
「ううああああああああああッ!!!!!!」
僕は叫ぶ。ママは呆れた表情と視線を僕に向ける。あからさまに『仕方ねえなあ、こいつ…。』って感じの態度と表情。僕は結構ママに怒られたりするんだが、こうやって呆れられるってのはなかなか珍しい。
「こ、こ、こんな僕にしたのはママのせいだろ!!」
僕は自分の変態性欲の原因をママに押し付けることにした。まあ、確かにママのせいではあると思うんだが、自分がおかしな動画でオナニーする動機をママに押し付けるのはおかしい気がする。人間がなにに興奮するかなんて人の勝手だからな。
が、僕の言葉はママの心に結構グサリときたらしい。眉間にシワが寄って、表情も険しい。僕がママに怒られるときにする表情だ。えっと、ママ、怒ってるのか???
「仕方ないね…。」
ママが見せる初めての表情。諦めと悔しさと悲しさと、その他色々な感情を鍋でグツグツ煮込んだ表情…。
何気なく言った言葉でママを傷つけた?
(やべえ、めっちゃ怒られる!?)
僕の心臓があたふたし始めた。怒られるときにはちゃんと怒られる覚悟をしないとな…。僕はママの次の言葉を待っていた。