「運命の人〜出逢い〜」-3
「もしかしてからかってるの!?さっきみたいに触ると私が恥ずかしがるのわかってるんでしょ!どうせ失恋ばかりして付き合ったことのない私だもん!顔のいい人が一体何なの!?」
自分でも何を言ってるかわからなかった。そんな私を黙って見ている犯人は、それでも真っ直ぐに見つめてきている。
また口が開きそうになった時、彼のあまりに真っ直ぐな視線に気まずさを覚えた。視線を逸らして、極力気になっても見ないようにした。
「俺も失恋ばかりしてた。」
低めの渋い感じの声が、小さめにゆっくりとした口調で聞こえた。
綺麗な顔とのギャップに少し驚きつつ、視線を逸らすことを忘れてしまっていた。
重苦しく犯人の口元は動かされる。声とは想像出来ないような綺麗な唇にも違和感を感じる。
「彼女をつくっても、その度に間もない時にフラれたりこちらを見てもらうことさえされなかった。顔や功績ばかり、俺と釣り合う女であっても必ずしも向こうの方が一枚上手だった。いつだって隣を歩かせるだけの男だったんだ、俺は。」
この人が何故こんな話をしだしたのかはわからない。だけども、話をしている時の目が何だか悲しそうに見えた。
「こんなに本気になったの初めてなんだ。いつも見掛ける度、一人の時はどこか寂しそうなのが友達と会う時は満面の笑顔で。見ているだけで心地良くて、いつの間にかそんなあなたを見ていたら欲しくて仕方がない仕舞いだった。他の男のことなんて見て欲しくなかった。そんな奴のせいで悩んでるのだろうと思うと、嫌で仕方なかった。」
何も言い返せなかった。先程まで存在していたはずの恐怖が、いつの間にか奇妙な期待へと化していた。
彼はもしかして、私に片思いしているのではないだろうか。だけども、信じたくない自分がいる。仮にそうであっても、こんなに都合のいいことが起きるはずがない。そして、誤解だったらその後が恥ずかしいから。
「この想いだけはどうしようもなかった。一方的に募るばかりで、無理矢理連れ込んだ後をどうするかなんて考えていなかった。」
黙ってばかりじゃいけない。よくわからないけど、明らかにおかしいのはわかっている。
それなのに、言葉が出てこない。何故か憎むことが出来ない。
「さすがに心までは手に入れることが出来ない。俺には、ここから先の行動を取れる勇気がないのかもな。」
そう言われると、少し黙って見つめられた。しかし、犯人は惜しむようにその場を離れて行った。
ドアの開け閉めする音が聞こえた。きっと、トイレかお風呂のどちらかだと思える。
わけが分からない。結局犯人はどうしたいのかが。
「そんな目で言われたら、憎めなくなっちゃうよ…。」
自分一人の空間の中で、私はそう呟いた。
そしてわずかな朝の光に気が付くと、縄が解けかけていた。きっと、少し切ってくれたのかもしれない。
それにしても、急に犯人がそうしたのは先程言っていたことがあるからなのか。もしそうだとしても、私には理解出来なかった。一番妥当だとすると、良心が蘇ったぐらいにしか考えられない。
逃げ出せる絶好のチャンスなのに、何故か腰が浮かない。べったり張り付くように体が動いてくれない。
私の悪い癖のようなものだ。すぐに気持ちが偏って、結局それでもって失敗するだろうに。
もしかして、心を動かされたのだろうか?ここまできて、私の惚れっぽいのが現れたのか。
こんな自分が嫌だ。どんな危険があったかもしれないというのに、何故そこまで簡単に心を許してしまうのか。
彼の表情が脳裏に焼き付いて、私をその場に座らせているようなものなのかな。