〜吟遊詩(第三部†地図番号1750Z160・交錯される真実と虚像†)〜-5
「次はどうする?言っとくが、毎回 俺が本の回収に向かうのはゴメンだからな」
今度はサーペントがアダムに問いかけた。
「今回は特別さ。ユノの仲間が集まり出すころにウチの者を潜りこませる。木を隠すなら森って言うだろ?人が集まりはじめればスパイだって自然に仲間になれるってこと」
「その例えが正しいか、些かの疑問は残るが…。俺に不利益でなければ何でもいいか」
あまり文句を言ってはまた面倒になると思い、サーペントは突っ込み所を敢えて軽く触れるだけに留めた。
二人(一人と一匹)の談笑はしばし続く……━━。
━━━━━━…。
「なぁ。ユノ、この服変じゃない?」
所変わり、ここはクロックカット城、衣装室。
一刻ほど前よりエアルは似たような服を着たり脱いだり……鏡の前に立っては先程の質問をユノに向かって繰り返していた。
太陽は一番高い位置に来ている。
「変じゃないよー。王服は目立つからーそんな庶民っぽい服がいいんだよ。これだからボッチャンは……」
ユノはエアルの方に背もたれを向けたソファーに腰ふかく降ろし、エアルの方など見向きもせずに答えた。もちろん最後の一言はエアルには聞こえないように小さな声で。
すでに飽きていたユノは、エアル専属の兵士を自分の膝元に座らせマッサージをさせている。片手にはグラスを傾けて…。
「う〜ん……これでいいか。ユノ!準備出来たよ」
エアルが元気よく振り返りユノに言った。
「……ってお前何してんだ━━!!兵士を私用で使うな!!」
笑顔で振り返ったはずのエアルが顔色を真っ赤にして叫んだ。
確実に怒っている…。
「それにそのワイン!!隣国の王様がわざわざ取り寄せてくださった時価ウン百万コスモとも言われている代物だぞ!!!」(“コスモ”はお金の単位)
尚もエアルが叫ぶ。城中の窓ガラスが割れるほどの声。…と言うか、すでにユノの傍らに座っていた兵士の鼓膜は破られ目を回していた。
「五月蠅なぁ。ほら、エアルにも飲ませてあげるから。口移しで♪」
ユノが軽くウィンクする。
「━━!!×△%□×¥#!!」
声にならないエアルの叫び。
「いや〜ん、真っ赤になっちゃって。エアルって純情さんね」
ユノがさらに追い討ちをかける。
「……じ、純情ぉぉお?俺はっ!!『怒って』る・ん・だ・よっっ!」
「!?!?」
さすがに生命の危険を覚え、ユノは部屋から逃げ出した。勢いあまり、ワインは床にこぼれてしまった。その結果、エアルの怒りは最高潮に達する。
………ドタバタッ…
…ダンダンダンッ!━━
鬼ごっこの域を超えた足音が城に鳴り響き……
数分後…。
「はぁはぁ…俺、お前と行くの不安になってきた…。」
「はぁ…━あっ、あたしも」
息切れぎれに会話する二人の姿が出来上がった。
遮るようにシェンが二人に割り込む。
「ユノ殿…くっ、出発のっ…準備が…ぁぅくっ……出来ましたよ…クククッ」
明らかに笑いを堪えている様子のシェン。
「…あっ。シェン。こんな怒りっぽい主人に仕えてたなんて大変だったでしょうね」
笑われたことに対して、取り繕うようにすました声でユノが言った。
「はいっ…プッ。でももうユノ殿がついているので安心です。ククッ」
まだシェンは笑っている……━━。
「………はぁ、そぅっすか。じゃぁ、そろそろ出発します……」
(そんなに笑わなくても……)
確にシェンは笑いすぎである。ユノ達に背を向けて笑っている事を悟られないように必死だが、お腹を押さえているのが見える。『腹をかかえて笑う』まさしくそんな感じだった。