〜吟遊詩(第三部†地図番号1750Z160・交錯される真実と虚像†)〜-4
「ちっ…しかもそれのおかげで命が一つ犠牲になるしな」
(ミノアール…悪いやつじゃなかっただけにまた後味が……)
少しでも裏の事情に触れた者は処分する。
考えれば当然のことだ。フとアダムが顔をあげた。
「へぇ。お前がそんなに慈悲深いやつだったとは。一ヶ月も一緒にいりゃぁ情もうつるってものか?」
ニタニタとしたアダムの嫌な笑い。
「俺はお前には敵わないと思っていたが、今なら楽に殺れそうだな」
アダムの口端がますますあがる。
「んぐぐぐっっ…(怒)」
当たってるだけに言い返せない。サーペントは怒りをぐっと噛み締めた。アダムにわざと向けた背が小さく震えている。
『ドンッ』
アダムが涼しい顔をしながら本を投げ出した。
「サーペント、冗談だよ。ミノアールは殺してない」
「はっ?それでいいのかよ!?」
サーペントはさっきとは一転して拍子抜けした目をアダムに向けた。
「うん。あのブレッド(能力)はまだまだ利用しないと」
「はっ。アダムも甘ちゃんじゃねぇか。血抜きすればそのブレッド(能力)は他のやつでも使えるのによぉ」
ここぞとばかりに言い返してやろうとサーペントは見下したように笑った。
「いつでも殺せるモノはとっておく。俺の怒りが治まらない時の捌け口にしたいからね」
アダムが冷めたように言い放った。
「…お前はこの千年間でさらに非道になったな……」
サーペントはわざとらしく少したじろいてみせた。 その言葉を聞いてアダムがニッコリと微笑む。
「怒り、恨み、辛み…それらが静まることなく全て蓄積されてきただけさ」
笑顔のままアダムはそう言った。握られた拳が本の上で震えている。
「お前…手が」
サーペントはそこまで言って口を継ぐんだ。
「これを読め。サーペントにも怒りが蘇るよ」
アダムがサーペントの前に本を差し出した。
「別に怒りは持ち続けてるって。…それにこの匂い耐えられないんだよな」
サーペントはブツブツと言ってはいるものの、器用に口先でページをめくって読み始めた。
ページを重ねるごとにサーペントの顔から表情が消えていく。
「…こんなもんか。『アイツ』が作った本だから都合の悪いことはばっさりカットされているが…」
最後のページを閉じてサーペントが呟いた。
「もっと酷いかと思ってた。でもここの件(くだり)なんか、酷いを通り越して呆れるってもんだぜ。だって『純血』は本当は六人いるし、それに……」
サーペントの声は明らかに怒りを押し殺したようなものだった。まだ続くサーペントの言葉を遮って、アダムが一言呟いた。
「立場が違えば何が『正しい』かなんて簡単に変わってしまう……」
そう言ったアダムはすでにいつもの冷静さを取り戻したようだった。
「間違いないのは、俺達が『悪』で向こうが『正義』ってことだな」
諦めたようにサーペントが言った。
「そうかな?だってブルーストーンは兵器としての力しか本当は持っていないのに」
本の内容をあざ笑うかのようにアダムが反論した。
「あぁそうだった。まるで俺達がブルーストーンを持った時に限り兵器になるような書き方。気に入らねえ」
サーペントもからかうように答えた。
「じゃぁ一体 誰が『悪』か…?」
アダムが問いかける。
「ブルーストーンを創ったやつさ」
サーペントが答えた。
「ハズレ☆正しくは…『自分で創っておきながら、その力を恐れ、負けたやつ』さ……」
アダムのその答えを聞くと、サーペントは納得したように高笑いした。
「そいつは違いねぇな!」
アダムの笑いも重なる。