お婆ちゃんとクッキー-3
「こっ、こっ、こらぁ、楓ぇ!それは最後の一枚だったのじゃぞ?!」
なぜいつもはあまり声を大きくしないお婆ちゃんがそうしたのか、その理由が分かったときにはもう手の中にはひとかけらすらも最後の一枚が残っていなかった。
意識していなかったとはいえ、好きなものの最後のひとくちを奪われてしまうというのは辛いだろう。悪いことをしてしまった、と反省したときにはすでに遅く、お婆ちゃんはへそを曲げて、そっぽを向いてしまっていた。
こういう反応は見た目通りの幼い子供みたいである。そんなつもりはなかったんだけど、お婆ちゃんはたぶんもう何も聞いてくれないだろうな。
でも、これは初めての失敗じゃなかった。こんなときは、こうすればまた機嫌を治してくれる。僕は冷蔵庫からストックのクッキーを取り出して、箱をそのやわらかいほっぺにくっつけてあげた。
意地でも振り向いてやらないつもりだったのだろうけど、お婆ちゃんはひっついた物がなんなのか分かった途端に曲げていた唇を戻した。でも、一応は怒っているという意地があるので、笑顔にはならなかった。
僕よりもずっと長く生きていて、僕が味わってきた事よりももっと辛かったり泣きそうな経験をしてきたのだろうけど、変なところで意地っ張りになってしまう、そんなお婆ちゃんも僕は好きだった。
「最初はお前が食べるのじゃ、楓」
「どうして?いいよ、お婆ちゃんのために買ってきたんだから」
「その代わり、最後は儂のじゃぞ?」
念を押すかの様な上目遣いが妙に可愛らしく、同時におかしくて笑いそうになってしまった。
これからも、物知りで、おおらかで、優しくて、でもどこか変なところで意地っ張りで、クッキーが大好きな、そんなお婆ちゃんでいてほしい。
〜おしまい〜