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お婆ちゃんとクッキー
【家族 その他小説】

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お婆ちゃんとクッキー-1

石はどうして固いのか、誰にも説明はできない。頭のいい人ならば出来るだろうけど、少なくとも僕や友達、家族の中では誰も仕組みを細かく理解している人はいない。
でも石が固いという事実は、僕や周りの人が理解できようと出来なかろうと、そんなのは別に関係なく身近に存在している。

分からないことなんて、いくらでもあるんじゃよ、それが僕のお婆ちゃんの口癖だった。

僕はそんな細かいことを気にしない、おおらかで優しくて、話していると楽しくなれる、そんなお婆ちゃんが好きだった。僕がまだ高校生になるよりもずっと前、生まれたときよりもっと前から生きている。
それは当たり前だ。お婆ちゃんなのだから、僕よりずっとずっと歳上でなくちゃそういう呼び方はしない。わざわざこんな説明をするのも変かもしれないが、お婆ちゃんを初めて見る人は年齢を聞いたら驚くか、或いは首をかしげるかそれとも冗談だと苦笑いするか、いずれかの反応を示すかもしれない。


「楓(かえで)や、おるか?勉強でもしておるのか?」


自分の部屋で明日使う教科書やノートを用意していると、ノックの後にお婆ちゃんの声がした。もういまさら驚いたりすることでもないし、わざわざ確認したりする必要もないのだけど、それでも時々、お婆ちゃんの声の幼さに対して不思議な感情を抱いてしまうことがある。
一応は聞いたくせにお婆ちゃんは僕の返事を待たず、勝手にドアを開けてしまった。


「なんじゃ、帰ったのに挨拶もせんで部屋に入るとは。躾が必要かのう?」


言葉のわりにはちっとも怒っている様子ではなく、むしろどこか嬉しそうに微笑んでいた。お婆ちゃんは僕といると楽しいらしいのだが、それは僕も同じなので嬉しい。家族は必要以上に仲良くする必要はないとも思うけど、やっぱり無関心よりはお互いに好きな方がいい。
お婆ちゃんは背伸びをしながらその小さな手で作った握りこぶしを振り上げ、小突く真似をしている。背丈は僕の腰くらいまでしかないので、届くはずなんてないんだけど。
本人が言うには早めに成長が止まってしまったらしい。そのせいで顔付きは若いのを通り越して幼く、初対面の人が見たら小学生か幼稚園児にしか見えないだろう。でも、母さんや父さんが言うのだから、間違いなく彼女はお婆ちゃんである。

僕もまだ小さい頃はお姉ちゃんがいると本気で思ってたけど、お婆ちゃんだと説明されてからすんなりその事実を受け入れられた。
石は理由は分からなくても固いんだし、地球のどこにいても朝が来てやがて夜になる。そういうものなんだ。ずっと幼い子供のままでも、お婆ちゃんはお婆ちゃんなんだ。


「躾(しつけ)という字を書けるかのう、楓や?ためしにどうやって書くのか説明してみるのじゃ」
「分かるよ。身に美しいで、躾でしょ?」
「うむ、ちゃんと勉強しておるようじゃな。それじゃあ次の問題じゃ、欅(けやき)という字を書いてみよ」
「うん。きへんに……ってそれはお婆ちゃんの名前じゃん!そんなの書いてどうするの?」
「いつも儂をお婆ちゃんとしか呼ばんからのう、試してみたのじゃよ。よいか?人の名前というのをなかなか覚えないのは、失礼じゃからの。名前はその人の存在している証じゃ、そいつをはっきり記憶しないのは、存在を認めないのかと思われても仕方ない事なのじゃ」


お婆ちゃんの名前である欅は書きにくい字なので、よく他の人に間違われて嫌な思いをして来たらしい。だから、孫である僕にはちゃんと人の名前を覚えて、しっかりと書ける人間になってほしいと言っている。


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