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お婆ちゃんとクッキー
【家族 その他小説】

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お婆ちゃんとクッキー-2

「それで、何か用事なの?」
「うん?えっと…………あ、そうじゃ、クッキーを買ってきたからの、お前と一緒に食べようと思っておったのじゃ」

お婆ちゃんはお菓子が好きで、和菓子や洋菓子、氷菓子と色々あるなかで一番好きなのがクッキーなのだ。中でも、クリーム等が入っていない、バターだけのシンプルな物が好きだった。
昔は食事の前でも構わずに食べたりしていたけど、お腹を膨らませてしまったおかげで肝心の食事が入らなくなる事が度々あって、お母さんに禁止されてしまったのだ。
もっとも、好きなものを簡単に我慢できる人間なんてなかなかいるはずもない。長生きしても辛く感じる事がある、大切な人を失った後の時間、食べたいものを我慢する、そして年下へのお説教、この三つがそうらしい。

僕もいつか、お婆ちゃんを失うときが来るのだろうか。ふとそんなことが頭をよぎったが、こんなに肌がすべすべで艶もいいのに簡単に死ぬわけないよな。
それどころか僕よりも長生きするかもしれない。お母さんが言うには、僕が子供の頃よりもさらに若返ってきてるらしいし………
お婆ちゃんにつれられ、縁側へとやって来た。お尻を下ろしたお婆ちゃんの隣に座って、夕焼けに染まった空を見上げた。景色に見とれている僕をよそに、小さな年上の子は用意してあったお皿の上に袋から出したクッキーを並べて、さっそく最初の一枚をつまんでいる。

「お婆ちゃん、もう食べてるの?」

僕の問いかけには応えず、二枚、三枚と頬張っている。何でもいいから話をしたかったんだけど、僕のそんな思いも知らないでお婆ちゃんは食べるのに夢中だった。本物の子供でも、お菓子にこんなに夢中になるとは思えなかった。
取り敢えず飲み込んで口の中をきれいにしてから話をしようと待つことにした。だけど、お婆ちゃんはちっとも食べるのをやめようとしなかった。やれやれ、孫の僕よりもお菓子に夢中なんですか。

「…………ふふっ」
「なんじゃ、楓。お婆ちゃんの顔がそんなに可笑しいのかえ?どうして笑ったのか言ってみるのじゃ」
「だって、ほっぺのまわりクッキーの粉だらけだよ。そんなに夢中になったりするの?」
「当たり前じゃ。儂がクッキーが好きなのは知っておるはずじゃぞ」

にかっ、と口角をつり上げて真っ白い歯を見せて笑うお婆ちゃん。僕はちょっと悔しかった。最近はなかなかこんな風にお婆ちゃんを笑わせることが出来ていないのだけど、僕が簡単にできないそれをクッキーは容易くやってしまった。
人と食べ物は同じじゃないからそこまで気にしたりする必要もないかな、と思い直して、何枚か残っているクッキーをかじった。細かい粉が溶けて、舌にふわりとバターの味が染みていく。

「どうじゃ?やっぱりクッキーはそういう方が単純でうまいじゃろう?楓」
「うん、美味しいね。ところでお婆ちゃん、何かまたためになる話、聴かせてくれないかな?何でもいいから…………」

でもお婆ちゃんは僕の話を聞く耳はもたず、再びクッキーに手を伸ばした。べつに今に始まったことじゃないのだけれど、こういう時のお婆ちゃんは本当に誰の話も聞いてはくれないのだ。食べてるときの顔は可愛らしいとは思うけど、話をしたい時にはちょっと困ってしまう。
どうやって話をしてもらおうかと考えながら何気なく次のクッキーに手を伸ばして、食べた。すると突然お婆ちゃんが甲高い叫び声をあげたので、慌てて飲み込みそうになってしまった。



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