一死、報いる-3
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「姉さん、しぶといね。まだ生きてたんだ、本当にもうすぐ死んじゃうの?」
「何てこと言うのかしらこの弟は。そういうことを言うとね、この手でぶっ殺してやるわよ
姉の飛鳥は笑いながら、弟の貴大に向かって右手をつき出した。だがそれは弟を叩くのが目的ではなく、近くを飛んでいたハエを捕まえるためだった。
「ちくしょー、まーた逃げられたか。なんかここハエが多いよな、病院の癖にそれってどうなの?」
「変だよね、本当。ちゃんとお風呂入ってんの?臭いから寄り付いてるんじゃない?」
「失礼な、何てことを言うんだ。でもこのハエ、なんか変なんだよ。妙にいつも飛んでるっていうか、まるで私を狙ってるみたいに…………」
ハエには記憶は無かった。
人格や意識があるかどうかも定かではない。だが、この病室から、出ようとはしなかった。飛鳥を狙う様に、離れず、叩かれないために適度に距離を取りながら、いつまでも、いつまでも飛んでいた。
耳を済ませたら、その羽音はまるで歯軋りの様にも聞こえる様な気がした。
〜おしまい〜