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一死、報いる
【コメディ その他小説】

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一死、報いる-1

死神である「ロイド」は焦っていた。
今まで立て続けに仕損じた事は1度として無かったからであるが、彼の歯軋りが止まりそうにもない理由はそれだけではなかった。

『おのれ…………あの忌々しい人間め、今にもくたばりそうなほど衰弱しているはずなのに、なぜだ。なぜ、私のやろうとする事がうまくいかないのだ?!』

見渡す限りの白に包まれた静かなこの病室で、痩せ細った少女がベッドに力なく仰向けになっており、すっかり生気の失せた眼差しで天井を見上げていた。
この生命力など微塵も感じられない様な少女こそが、死神ロイドの標的だった。放置しておいてもくたばりそうなのが相手なので、キャリアのわりにはつまらない仕事だと舌打ちしてから随分時間が経過してしまったのであった。

『さて、どんな方法が残っているだろうか』

壁に寄りかかり眉間にシワを寄せたまま、ロイドは今まで自分が試してきた方法と、それらを行った事でどんな結果になったのかを思い返す。
まずは得意なナイフによる刺殺。今みたいに人形の様な無表情で横たわっていた少女の首筋に向かって降り下ろしたが、突き刺さる瞬間に突然目にも止まらぬ速さで寝返りをうち、それと同時にくしゃみをしたのであった。
「げほっ、げほっ、死ぬ、死ぬっ」とか細い声を咳の合間に絞り出していたが、彼女のイレギュラーな反応に対してそのまま死ねと思ったのは内緒である。
気を取り直して、今度は横たわったままの彼女に再びナイフを降り下ろしたのであった。なんと、次は更に同じ方向に寝返りをうち、ベッドから転がり落ちたのだ。
死にそうだったくせに右に左に転がりながらのたうち回っている彼女を見ているうちに、仕事を済ませようという気持ちが冷えていったのであった。
日を改めて次に試みたのは首を絞めるという方法だった。魔法でも使って魂を抜き取れればこちらも手間取らないし、相手もそれほど苦しむこともないのだが、生憎死神というのはそこまで力があるわけでもない。可能なことといえば、人間からは存在を認知されない事くらいである。
同じく死んだような顔をして取り敢えず目だけは開けたままの状態な彼女に近付き、両手で首を掴んだ。先日はしくじったが、今日こそは確実に殺らせてもらう、そう、口のなかで言葉を谺させながら。さようなら、君の事は忘れないでいてあげよう。今まで殺してきた人間はあまり覚えていないけど。

「はぅううんっ!!」
『がっはぁっっ?!』

しかし、ロイドの顎を的確に拳が捉えたのであった。認知こそはできないが、人間は死神には触れることができないというルールは存在しない。単に見えないだけである。
死にかけのくたばりぞこないのくせして、なぜ自分の体をこんなに空高くまで突き上げる様な力があったのだろうか。ロイドは受け身を取ることができず、背中から床に叩きつけられたのであった。

「ね、姉さん、どうしたの?いきなり腕を振り上げるなんて、蚊でもいたの?」
「ハエが飛んでた。でも捕まえられなかった。確かに当たったと思ったんだけどなぁ…………」

見舞いに来ていた彼女の弟はよくいるって分かったね、と笑っていた。ロイドは歯軋りをしながら、飛んでいたハエを捕まえて握りつぶしたのであった。

「明日まで生きてられるか分からないし、捕まえたかった。後悔は残したくない…………ねぇ貴大(たかひろ)、もしお姉ちゃんが死んじゃったら、悲しんでくれる?」
「なに言ってるんだよ飛鳥(あすか)姉さん、まだまだ生きてくれなくちゃ嫌だよ。出来るなら僕を看取ってほしいんだけど…………」

何が可笑しいのかはわからないが、姉と弟は笑っていた。ならば望み通りにしてやろうか、とロイドは弟に向けてナイフを突き立てそうになったが、死神は標的以外に手を出すのはタブーである。もしもそれを破ったら、死神としての力を失い、記憶も全て消え失せた後に動物の姿で人間の世界に留まる羽目になってしまうのだ。
次にロイドは銃による方法を選んだ。しかし、ナイフと同じくいくら撃っても当たる寸前に寝返りをうっては寝返りをうつというのを繰り返し、掠りもしなかった。それどころか銃声を看護師達が聞き付け、患者の安全のために警備員が常駐する様になってしまった。
ここまでこけにされたのは初めてだ、とロイドは地団駄を踏みまくったあげくに泣き崩れるしかなかった。単純に失敗するだけではなく、より標的を仕留めにくい状況にまで自ら追い込んでしまったのだ。たとえ今さら成功して地獄に戻ったところで、みんなの笑い者である。


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