17-9
「あ、ごめん....私ばっかり飲んじゃってたね....」
凜子は鉄弥にビールを差し出す。
あ、うん。と言って缶を受け取る。
再び指が触れる。
鉄弥の手は缶を掴んだが、凜子は放そうとしない。
一つの缶を向かい合って握る、妙な体勢になった。
凜子は赤い顔を俯かせたままだ。
「凜ちゃん?大丈夫?酔っ払っちゃった?」
「....」
問いかけに答えない。
困った。
こういう時の対処方法は、鉄弥のマニュアルには記載されていない。
一旦缶から手を離し、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
凜子は酒に強くないと言っていた。恐らくは、飲みすぎたのだろう。
無言の凜子の手からビールを取り、替わりにミネラルウォーターを持たせる。
「.....ごめんね、ありがとう....」
「あ、いや。うん。凜ちゃん、大丈夫?飲みすぎた?」
「ううん....大丈夫....」
「今日さ、結構疲れたもんね。もう寝ようか」
「.....」
「あっ、俺は床かソファで寝るから安心してー」
鉄弥は努めて明るく接した。
ビールを手にベッドを離れようとする。
すると、ローブの裾を掴まれていることに気が付いた。
「凜ちゃん?」
「....鉄弥くん、優しいね...」
「え?」
「元くんたちと一緒にいるときもそうだし...今も.....」
「いやいや優しいなんてさ、んなことないよ」
「......あのね、私好きな人いるって、その人のこと聞いて回ったって言ったじゃん?」
「あー、うん」
鉄弥は落ち着いてベッドに座り直した。
凜子が話し始めただけでも少し安心した。
気を取り直して煙草に火を点ける。