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春眠の花
【フェチ/マニア 官能小説】

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に乃花-4

 その日、ホームレスらしき人物はとうとうあらわれなかった。
 女子高生の愛紗美とも連絡を取っていない。

 一日の仕事を終えた私は、二日ぶりに愛車との対面を果たし、微妙な気分を引きずってマンションに帰宅した。

 愛紗美はあれからどうしているのか、私がもっと大人の態度で接していれば傷つけずに済んだのか、そんなことばかり考えていた。

 車のキーケースを靴箱の上に置くと、今日届いた郵便物をまとめてリビングのテーブルに乗せた。

 結婚した友人からのポストカード、キャッシュカードの明細書、それとB4サイズほどの大きな封書がめずらしく届いていた。

 よく見れば、どこかの病院からの通知らしい。
 おもての中央に可愛らしいシンボルマークがあって、それはちょうど緑色の四つ葉のクローバーによく似ていた。

 はてな、と私は首をかしげた。
 以前どこかでこれとおなじものを見たような気がする。

 私は今、デジャビュに遭遇している、そう感じた。

 曖昧が曖昧でなくなるとき、それは確信に変わる。
 そこに書かれた印字を目で追ってみて、私は確信した。

「いずみ記念病院院長、泉水守人……」

 知らないはずのこの病院名を私はすでに知っている。

 その理由を探ろうとすると、骨盤のあたりがしくしくと疼いてくるのだった。

 腹部に手をあてたまま、しばらくその封書を眺めていた。そして中身を確認する。

 近頃メディアで頻繁に取り沙汰されている婦人病のことや、少子高齢化の深刻な問題、それに、女性らしい一生涯を送るための医療のあり方など、とても興味深い内容がそこには書かれていた。

 さらさらと目を通したあと、別紙のうちの一枚を広げてみた。
 それは婦人科検診の受診票だった。

 別れた夫、風間篤史とのあいだに子どもをつくらなかったので、産婦人科とはほとんど縁のない生活をしていた。

 正確には、つくらなかったのではなく、つくれなかったのだ。

 おそらく夫婦のどちらかに不妊の原因があって、私たちが離婚したいちばんの理由はそこにあったのだから。

 しかし、こうやって社会での女性の役割をあらためて突きつけられると、もう三十だからと年齢のせいにしている場合じゃないなと、そう思いはじめていた。

 種子があれば花は咲く。子孫を残すための種子ではなく、きれいな花を咲かせるための種子があってもいいのではないだろうか。

 不妊症だからといってセックスを避けるのは、女をあきらめるのとおなじだと思う。


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