は乃花-2
「すみません、ほかの人たちは?」
何から何まで白一色の病室を見まわして、私は尋ねた。
「夕べは大勢の前であんなことをされて、びっくりしたでしょう?」
「それは、まあ……」
「不妊治療にもいろいろとあるんですけど、まず、その人の体質に合った治療法を見つけるためのマッチングテストが必要になってきます。子宮や卵巣や膣の状態を分析して、データ化させるわけです」
なにやらむずかしい話になってきたなと、私は苦手な顔をしてみせた。
「小村さんが妊婦として過ごしてきた十ヶ月間のデータはすべて、この病院の資格者によって保護されていて、徹底的に解析されます。誤診の確率は、一パーセント以下といったところでしょうか」
彼女の言葉すべてを信用したわけではないけれど、徐々に洗脳されつつある自分がいるのも事実だった。
「それじゃあ、私の個人情報も……」
「もちろん、きちんと保護されています」
彼女の揺るがない口調に、私はそれ以上何も言わなかった。
「では、検温と、血圧を計りますね」
彼女はときどき嬉しそうに自分のお腹に触れながら、業務的な手つきで看護師の仕事をこなしていく。
「平熱ですね。血圧も問題なさそうなので、朝食が済みしだい、すぐに治療をはじめます。よろしいですか?」
今さら嫌だと言ったところで、常識の通用しないこの施設内から逃げ出せるとも思えない。
私は病院食に物足りなさを感じながらも、牛乳パックにささったストローに吸いつき、だらだらと食事をとった。
ふと、整理棚に目をやると、パンフレットらしき小冊子があった。
表紙には病院のシンボルマークが描かれていて、それは緑色の四つ葉のクローバーを思わせるデザインだった。
昨日、私の見た赤十字のようなものは、間違いなくこれだと思った。
「いずみ記念病院院長、泉水守人。イズミモリヒト、か……」
その名前から、自分なりに推理をはたらかせてみる。
夕べ、私の性器にさんざん無責任な行為をしてくれたあの医師は、院長というにはあまりにも若すぎる。
だとすれば彼の父親か、あるいはほかの誰かが院長だと考えるのが妥当だろう。
まったく、親子そろって変態だなんて、遺伝子を疑っちゃう──。