は乃花-18
清楚な制服姿で、携帯電話を片手に、彼女がこちらに近づいてくる。
「愛紗美ちゃん」
「どうして出てくれないの?」
愛紗美が言った。
「奈保子さんはどうしてケータイに出てくれないの?」
どうやら私に電話に出るように言っているようだ。
「ここは病院なの。携帯電話の電源は切っておきなさい」
そうして私は自分の携帯電話を探す。けれどもどこにも見当たらない。
「はやく出てってば」
愛紗美は語気を強めて私に詰め寄る。
彼女の手の中にある携帯電話が、着信を告げて止まない。
見覚えのあるストラップとデコレーション。
私の探し物は、彼女の握っているそれだった。
「それ、私の携帯電話……」
どういうことなのかまったくわからない。
とりあえず彼女から携帯電話を受け取り、通話キーを押す。
それなのに着信音が止む気配はない。
もう一度、ボタンを押してみる。
もう一度──。
もう一度──。
手応えがない。
「壊れちゃったみたいだから、話があるなら直接言って?」
「だめだよ、ちゃんと電話に出なきゃ」
「どうして?」
「まだ気づいてないんだね」
彼女は立ち尽くしたままで言った。
「今見えてるあたしも、そこにいる看護師さんも、ぜんぶがぜんぶ夢なんだよ」
私はリアクションに困った。このまま彼女の冗談に付き合ってあげたほうがいいのだろうか。
「はやく起きないと仕事に遅れちゃうよ」
「仕事?」
その瞬間、ぷつりと映像が消えて、魔法が解けるように私は夢から覚めた。