ろ乃花-9
「エッチって、どのくらい気持ちいいの?」
思春期の興味といえばやはりそこに行き着くわけで、それは私も通った覚えのある道だ。
「気持ちは、そうね。相手の人のテクニックにもよるから、感じ方は人それぞれだと思う」
「それじゃあ、オナニーしすぎると不感症になっちゃう?」
なかなかの奇抜な質問に、できるだけ適切な返答を探る私。
「逆に訊くけど、愛紗美ちゃんはそういうことをしたりするの?」
「あたしはしないけど、うちって女子校だから、そういう話題はよく出たりするかな」
「女同士ならまだ可愛いかもね」
「援交の相手とラブホに行ったら、そこでバイブを買ってもらったとかね。バイブって、ケータイのやつとは違うバイブだよね?」
「あたりまえでしょう。大体そんなことに青春をつぎ込んでいたら、ろくな大人にならないんだから」
「そんなことって、援交?オナニー?セックス?」
見た目は子どもなのに、中身は不純物でいっぱいだと思った。
だんだん彼女のペースに流されていく。
打ち明け話はここで打ち切りにした。
「これから仕事へ行かないといけないんだけど、あなたはどうするの?」
「どうするって言われても、奈保子さんが家に来いって言うから、あたし……」
「そうだった、ごめんなさい。家の人に迎えに来てもらえないの?」
「夕方にならないと無理だし」
どうやら自分の親切のおかげで、とんでもない荷物を持ち帰ってしまったらしい。
「ここに居てもいい?」
うかがう様子で彼女が言う。
悪い子ではなさそうだし、そうするほかにないと思った。
「散らかさないでよ?」
「大丈夫。変なものを見つけても、秘密はまもるから」
「何よ、それ」
「掃除と料理は得意なほうなんだ」
「余計なことはしなくていいから。わかった?」
彼女を指差して念を押す。
「じゃあさ、連絡が取れないと困るだろうから、ケータイ番号を交換しようよ」
そんなことにも気づいてやれなかった。
彼女のペースが変わることはないようだ。
私たちはお互いの携帯電話を近づけて、赤外線で通信した。
目には見えないその光が、不思議な赤い糸のように私たちをつなごうとしていた。