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春眠の花
【フェチ/マニア 官能小説】

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ろ乃花-10

「おはようございます。今日はすみませんでした」

 お店に着くなり私は店長の元へ行って、遅刻した理由をくり返し口にした。

「小村さんが遅刻するなんて、今日は雪になるかもしれないわね」

 花屋の店長の名見静香(なみしずか)さんが、ほら、と空を見上げる。
 雪どころか、雨の気配すらない晴天がパノラマで広がっていた。

 あんなに高いところを小鳥が飛んで、呼吸をするだけで、すがすがしい春の草花の匂いが鼻腔を抜けていく。

 テラスに並んだプランターでは、パステルカラーの生花が陽気を受けて、葉っぱの緑色にもいきおいを感じる。

 これだから花屋の仕事はやめられない。

「そういえばさっき、小村さんに面会したいっていう人が来ていたんだけど。まだ出勤していないことを伝えたら、なにかしら、名前も言わずに帰ってしまって」

「私に面会ですか。どんな人でした?」

「そうね、年齢は私に近い感じがしたから、四十歳くらいの男の人だった。でもその人、ホームレスみたいな恰好をしていて、小村さんに用があるふうにはとても見えなかった」

 とっさに頭の中で、四十歳の男性ホームレスの姿を想像してみる。

 白髪混じりの癖毛に、ヤニで黄色くなった歯並び。
 穴の空いた軍手と、すさんだ腹巻き。
 さらには季節に左右されない万年コートを羽織って、猫背の姿勢であてもなく徘徊する人物。

 それは極端すぎるけれど、そんな人が一体どんな用件で私に会いに来たのだろう。

 思いあたる節といえば、今朝の痴漢騒動くらいしか浮かばない。
 でも、あの現場にホームレスらしき人物なんていなかった。

「さっそくだけど、配達のほうをお願いね」

「わかりました。それじゃあ、すぐに着替えてきます」

 よっぽど重要な理由があるのなら、またそのうちに向こうから訪ねて来るだろう。
 それ以上のことは考えないことにした。

 ボーダーシャツとワークエプロンに身を包むと、軽トラックの荷台いっぱいにパンジーとビオラを積み込み、晴れ晴れした気持ちで私は車を発進させた。

 カーラジオから流れてくるヒット曲のランキングは、いつからか私の予想を微妙に裏切りつつあった。

 自分もそういう年齢に差しかかっているのだと、バックミラーをのぞく振りをして化粧くずれをチェックする。

 おや?と思った。

 助手席のバッグの中から携帯電話のバイブ音が聞こえる。

 私は路上の適当なスペースに車を停めて、着信履歴の番号に電話をかけた。


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