投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

春眠の花
【フェチ/マニア 官能小説】

春眠の花の最初へ 春眠の花 24 春眠の花 26 春眠の花の最後へ

ろ乃花-11

「もしもし、奈保子さん?」

 声は女子高生の愛紗美のものだった。

「どうしたの?」

「ううん、別に大した用じゃないんだけど、掃除機が見当たらなくて」

「それだったら、玄関のそばにある扉を開けてごらんなさい。そこにあるはずだから」

「うん、わかった」

 受話器の向こうで、スリッパをぱたぱたと鳴らす足音がした。

「あれ?」

 今度は疑問系の声がする。

「どうかしたの?」

「誰か来たみたい。インターホンが鳴ってるし」

「ちょっと待って、出なくていいから」

「ひょっとして男の人だったりして」

「変なところに興味を持たなくていいから、あなたは大人しくしていて」

「それじゃあ、どんな人なのか顔だけ見ておいてあげる」

「まったく……」

 私がため息をついていると、彼女が不吉な台詞を発した。

「ちょっと、最悪なんだけど……」

「何が最悪なの?変な人でも来たの?愛紗美ちゃん?」

 応答がない。

「もしもし?」

 そこで通話が途切れてしまった。
 緊急事態とはこういうことを言うのだろう。

 焦りながらふたたび電話をかけなおしてみても、ガイダンスが否定的な決まり文句をくり返すだけだった。

 私は急いで自宅マンションを目指した。嫌な胸騒ぎがする。

 今朝の痴漢と、花屋にあらわれたホームレス。
 どちらかがマンションにまで押しかけてきたのだろうか。

 「最悪」だと言って切れた携帯電話を横目に、車も、私の心臓も、制限速度をオーバーしていくのだった。

***

***

 マンションに着いた。

 駐車場、エントランス、郵便受け、エレベーター、どこにも不審なところはない。

 そして部屋の前まで来て、とりあえずインターホンを鳴らす。

 中からの返答はない。

 それもそうだ。さっき彼女と電話をしていたときにも、インターホンが鳴っても出るなと強く言ってあったから、ただそれをまもっているだけなのだから。

 私は玄関の鍵を開けて、ドアの向こうに彼女のローファーを確認すると、ほっと気の抜けた息をついた。


春眠の花の最初へ 春眠の花 24 春眠の花 26 春眠の花の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前