い乃花-8
そういえばあのとき、私の受け入れ先を探していたところに、彼女がこの病院の存在を匂わせていた。
それに対して救護の人たちが即答できないでいたのは、何故だろう。
常識人を寄せつけない逸話や、異常な経営体質など、フィクションの中でしかやり取りされていないと思っていたことが、ここでは常識として通っているのだとしたら、それはそれで大問題だ。
疑い出したらきりがない。ここにいる全員が、白装束をまとった性犯罪者たちに見えてくる。
今、私の頭上には、大きなクエスチョンマークが浮かんでいる。
何かがおかしい。自分の体もどこかおかしくなっている。
泉水医師が私の膣内に注入したものは麻酔なのか、それとも鎮痛剤のたぐいか。
その効果は明らかに私の子宮の痛みを散らしはじめていた。
「あ……あのう……先生……」
「どうしましたか?」
「いいえ、あのう、痛くない出産というのは、何か変じゃないかと思って……」
「かかりつけのクリニックでパンフレットを読んでいないのですか?無痛分娩というのは、最近ではめずらしくないんですけどね」
「そうなんですか?」
「陣痛が緩和されてきたということは、さっきの薬は小村さんと相性がいいようですね」
「出産に必要な薬なんですか?」
「ええ。女性ホルモンの分泌が活発になってきているはずです。それが何を意味するのか、おわかりですか?」
彼の問いかけに口ごもっていると、遠慮のない言葉を浴びることになった。
「あなたの性欲中枢を刺激しているのですよ、小村奈保子さん?」
私は、開いた口を塞ぐことも忘れていた。
出産と性欲にどんな関係があるのだろう。
すると今度は佐倉麻衣が大人しい口調でこう言う。
「小村さんの妊娠は、じつは想像妊娠なんです。信じてもらえないでしょうけど」
きれいな顔をして、なかなかおもしろいことを言う人だと私は思った。
臨月を迎えたこの大きなお腹が、私の思い込みだとでも言いたいのだろうか。
ありえない──。
「どういうことなのか、納得のいくように説明してください。このお腹は何なんです?不妊治療は失敗だったんですか?」
私は妊娠十ヶ月分のストレスを吐き出した。
発散させたいのに発散できないものが、泌尿器のあたりでまだまだくすぶっている。
陰部の突起は情けないほどに不満をため込んで、甘く危険な状態だった。