い乃花-7
「点滴、もっと強く」
泉水医師の語気が強くなり、現場に緊張がはしる。
自分よりも年上の看護師らに次々と指示を出す。
「膣鏡、こっちへ」
銀色の挿入器具が彼に手渡され、繊細な手つきでそれを私の膣内に差し込んできた。
「子宮口の状態を確認します。異常があるといけませんからね」
その瞬間だけ、別の声色が喉元まで出かかっているのに気づいて、ぐっとこらえた。
冷たい器具の感触に、私は切ない気分になっていた。
局部は完全にその口をあけて、お尻の穴までもが拡張されたような錯覚に責められる。
「シリンジ」
差し出された彼の手に、針のない注射器が渡る。
そこに満たされた透明な液体を、私の性器の中へ滴下する。
「女性ホルモンを増やすために、ホルモン剤を塗布しています」
医師の口調に起伏はない。おそらく正しい処置がなされているのだろう。
彼は女性器をあつかう前に、人の命をあつかっているのだ。
どれだけ怪しく思っても、何が何でも聞き分けのいい産婦を演じつづけるしかないのだから。
それが絶対条件だとも言える。
「カテーテル、吸引して」
一見して分娩とは関係のなさそうなこれらのやり取りも、すべてが経験の上に成り立っているのだろうか。
的確な指の感触が、硬い器具の肌触りが、彼らの思惑通りに私を悩殺しようとしていた。
「せ……先生……」
「痛みを抑制する施術をしていきます。気になさらずに声を出してもらっていいんですよ」
私の膣内から、ねちゃねちゃという音が聞こえはじめる。
ハンバーグの下ごしらえで、ミンチ肉を手でこねるときのように、美味しくなあれ、美味しくなあれ、と混ぜられている感じがする。
音につられて膀胱がくすぐられたり、一人でする『あれ』みたいな感覚にぞくっとしたりで、私の体はとても忙しい。
そんな私の反応を目で追いながら、研修医や学生たちはメモを取る手に熱意を込める。
「小村さん、痛みはどうでしょう。落ち着いてきましたか?」
看護師の佐倉麻衣が私の顔色をうかがう。