い乃花-6
「産科医の泉水（いずみ）です」
足元から太い声がした。大きくふくれ上がった自分のお腹越しに、日焼け顔の若い医師の姿が確認できた。
顔の下半分はマスクで隠れているものの、声の雰囲気がスマートというのか、恵まれた器量の持ち主であることがじゅうぶん伝わってくる。
さぞかし名のある名医の家系に生まれて、それなりの経験を積んできたことだろう。
それを見積もっても彼は若い。
「僕が小村奈保子さんの担当をさせていただきます。初産の方は大体みなさん緊張されますが、産後もふくめて、小村さんのお産を全力でサポートしていきます」
若い医師は私の目から視線を逸らさずに言った。
その彼に対して私は両脚を大きくひらき、汚れた女性器を差し出す恰好になっている。
出産するのだからしょうがないと思っても、今さら女の見栄を捨て切れずに恥ずかしさが込み上げてくる。
不安材料はほかにもあった。
私のまわりを忙しく動きまわるスタッフや、インターンの学生らしき男女数人の姿も見える。
ここにいる全員に体をいじくりまわされ、長時間にわたって恥部をさらしつづけるというのだから、これほど恥ずかしいことは今までに味わったことがない。
顔から湯気が立ちそうなくらいに頬が熱い。
みんなが私の股間に注目しているからだ。
その目は感情をなくしているのかと思うほど冷静で、苦痛に顔を歪める自分とは対照的に見えた。
温度がない、そんな様子だった。
「小村さん、呼吸はこうですよ。ひっ、ひっ、ふう……」
この中で唯一の温かい存在、佐倉麻衣が私のそばにいた。
「ひいっ……ひいっ……んふう……」
彼女にならって下腹部に集中して、私は長いため息を吐いた。
あまりの痛みに、目の前で火花が散る。
「大丈夫ですよ。ちゃんと子宮も下りているし、産道がひらいてきていますからね」
握りしめた手首に血管が浮き出て、爪が手のひらに食い込んでいる。
汗、鼻水、涙、唾液、それらが私の顔を台無しにして、相当ひどいことになっているのがわかる。
帝王切開はやらずに済みそうだけど、会陰切開に迫られたなら──。
陣痛とどっちが痛いだろうかと、想像してから私は後悔した。
健康な皮膚にメスが入るのだから、それだけの痛みがあるに違いない。
不快なものが膣内から垂れ流されているのを、初対面の目たちが注意深くのぞき込んでいる。
剃毛も済ませてあるので、ひくひくとうごめく陰唇の様子までもがはっきりと見られているはずだった。