い乃花-13
私たち女二人の密かなやり取りが、分娩室のシリアスな雰囲気に花を添えたらしい。
しばらく気の抜けた空気が漂った。
これは彼女のなりの気配りだったのだろう。
「男ばかりの現場では、なかなかこうはいきません。佐倉さんの仕事に対する姿勢は、院長だって評価しているくらいです」
しゃべってから、なにやら余計な話を持ち出してしまったという顔をして、泉水医師は医者の面構えをつくりなおした。
「小村さんの気が変わらないうちに、やるべきことをやっておきましょう」
どこからどう見ても医者の風貌だけど、彼の台詞はときどき鼻につく。
「僕の診るかぎりでは、あなたは三十歳になってようやく理想のビジュアルを手に入れたようだ。顔も、体も、それから女性器も見事なビジュアルです」
褒め言葉のつもりで言ったのだろう。私はかるく受け流した。
けれども体のほうはどうやら彼に口説き落とされたようだった。
すごく濡れているのが自分でもわかる。
愛液の分泌量だけで両手が満たせるくらいに、あとからあとから溢れてくる。
胎内のジュースを搾り出すようにして、婦人科医療のスペシャリストは器具のストロークを巧みに操る。
「スプーン──」
「あっく……うっく……んん……」
敏感なスポットを執拗にこねてくる。
「トリック──」
「ひゃんっ、きゃう、あう……」
不規則な動きで粘膜を掻きまわされる。
さまざまなアプリケーションによって結合部を絶妙に突き上げられるたびに、グロテスクな音が部屋中にひびく。
この卑劣な行為を受け入れつつある自分がいる。それは否定できない。
感情を持たない機械じゃなく、もっとぬくもりのある生の男性が欲しくなってきている。
あれが欲しい──。
性のスイッチが入った私は、息を吸っているのか吐いているのかもわからなくなっていた。
「オーガズムの兆候だ。類似の症状と間違わないよう、君らも気をつけるように」
女性が性的な絶頂感に溺れていくメカニズムを、彼は指摘を交えながら研修医らに教え込んだ。
爽快な汗の一滴一滴が、私の肌の上でふるふるとおどっていた。
「すぐに楽になりますよ。治療はまだはじまったばかりですからね」
出口の見えない快感に呑み込まれていく中、ついに淫らな審判が下される。