『graduation〜ファイティングガール〜』-7
よくは分からなかったが、どうも先輩とその女の人は花束を交換したようだった。
(『雪見』先輩だ!)
直感的に分かったのは、その人が都築先輩の顔をつかみ、私の方へ向けた時だった。
(うわっ)
都築先輩と目が合う。先輩は私がそこにいることに驚いた後、罰の悪そうな顔をして横を向いた。
明らかに、私について、雪見先輩に何か言われたのだ。
・・・・・・何故だろう。その瞬間、私は全てを悟った。
桜の精の昔話をしたのも、
小犬のワルツの着信音も、
都築先輩の想い人も、
全部、あの人だ。
だって都築先輩にあんなことをできるのは、世界中探したってあの人しかいない。
雪見先輩が都築先輩へ背を向けてどこかへ行くのが見えた。それと同時に、都築先輩が私の方へ歩いてくる。
今にも泣き出しそうな迷子の顔。
「なにかあった?さっきの、白い着物の人と。」
ほぼそれが雪見先輩だと確信していたが、女の意地でそれは言わなかった。
「・・・なんか、よく分からない。」
やっぱり子供のように頼りない先輩・・・
私は勇気を振り絞って言った。
「ちゃんと、話してきたら?」
「・・・」
「大丈夫。ここで待ってる。すぐに帰ってきてくれるでしょ?」
母親が子供に言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「うん。」
都築先輩はピンクの花束を私に預けると、凄い勢いで走り出した。
行かせなくなかった。けれど行かせなければならなかった。そして、帰ってきてもらわねば・・・。
だって雪見先輩。私、あなたには敵いません。
都築先輩にあんな顔をさせられるのは貴女だけです。
でも、私は羨んだりはしない。
別に、私はあんな顔を都築先輩にさせたいわけではないから。
私は好きな人には、いつだって優しく幸せな顔をさせてあげたい。
そして、それを都築先輩にしてあげられるのは、あなたじゃなくて、私なんです。
私は都築先輩の『想い人』で終る気も、『彼女』で終る気もないから。
私は一生、都築先輩を支えていくつもりだから・・・。
都築先輩は、もう私のものなんです。
だから、過去にちゃんと決着をつけさせなければならない。先輩が私のところへ帰ってくる自信はある。
でも・・・
だけど・・・・・・
でもね、先輩・・・都築先輩・・・お願い、ちゃんと帰ってきて・・・
私はいつだって戦ってきた。大学受験も、都築先輩を手に入れるためにも。計画を立てて、それをきちんと遂行して、いつだって積極的に欲しいものは手に入れてきた。