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『graduation』
【青春 恋愛小説】

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『graduation〜ファイティングガール〜』-6



次の日の朝、小犬のワルツの着信音で目が覚めた。
都築先輩の携帯。
先輩はディスプレイを見もせずに電源を切った。
「目覚まし」
不思議そうな顔をした私に、事も無げにそう言った。

けれどもそれからも時々、都築先輩の携帯からは小犬のワルツが流れてくることがあった。

デートしている時、いちゃついている時、寝る前・・・

けれども先輩はその電話を一度もとることがなかった。

何かある、ということは分かった。
そしてそれは踏み込んではならない領域であるということも・・・。

私は何も言わず、先輩だけを信じた。


それでも時々、都築先輩がサークルの後輩にやたらモテているという話なんかを人づてに聞いてしまうと心配になった。

「あゆみのコト?大丈夫だよ。ツヅキは亜紀ちゃんしか見えてないって。雪見?あいつ学校自体あんまり来てないんじゃないかな?」

佐伯先輩は軽く請合ってくれたが、やはりそこは乙女心でどんな小さな不安だって取り除きたいものなのだ。

だから先輩がサークルに入り浸るのを私はホントは止めたかった。
私といない時、必ず先輩はサークルに行っているのだ。

「そんなに楽しいんですか?」

聞くと、

「うん。今までちゃんと活動していなかったからさ。狭い世界だけど俺にとっては広い世界。」

そんな風に嬉しそうに話すので、「行かないで」とは言えなかった。


そしてそれは1年間ずっと続き、私のどうやったって入っていけない世界で、卒業式の後も先輩は楽しそうにサークルの人たちに囲まれていた。




私は仕方なく、先輩が遠くからだけれども、よく見える階段に陣取ってその様子を眺めていた。

小さい女の子が都築先輩に駆け寄った。花束を持っている。

(あれが『あゆみ』かなぁ?)

そんなにはよくない視力を凝らしてじっとじっと見る。

女の子は泣いているようだった。

都築先輩もまんざらでもない様子。

こういう時の為に、都築先輩は私という『彼女』がいることを公表しなかったのかもしれないと思うと、悔しくてこっちの方が泣きそうになった。


と、私の心を代弁するかのように、その女の子と先輩の間にツカツカと割り込んだ女の人がいた。
白い着物に臙脂の袴。着物が異様なほど似合うことが遠目にも分かった。


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