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青影検査センター
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謎の検査技師-1

青陰(あおかげ)検査センターは都心から離れた緑豊かな郊外にひっそりと建っている。

そこへ赴任した看護師の葦野花果(よしのはなか)は主任の上野に呼ばれた。

「良い? まず新任の看護師には案内係というのをやってもらいます。

そこであなたはどれだけ資質があるのか試されることになる。

ここでの仕事は他の病院や検査センターとはちょっと違うことが最優先で要求されるの。

お喋り女はすぐに頚になるわ。口が固いこと。右手のことは左手に教えない。

ここに来る人は患者ではなく、お客様よ。

しかも有名人ばかり。でも顔を知っていてもそんな素振りを見せちゃ駄目。

サインをせがむのはもってのほか。ミーハーは駄目なの。

お客様の顔を覚えようとしないこと。

普段からあんまりテレビや週刊誌を読んで、その方面の興味を育てないこと。

有名人を見て目をキラキラさせるのも駄目。

関心を持たないようにするのがお客様への信頼と安心感を得ることなんだから。

このセンターは顧客情報に関して秘密厳守ということで成り立っているの。

今日も何人か芸能人やスポーツ選手、政治家の方などが来ているけれど、今言ったこと忘れちゃ絶対駄目よ」

葦野花果は上野の話をよく理解した。

葦野自身、お喋りをする女は嫌いである。

何か新しいことを耳にすると、大騒ぎであちこちに喋って歩く。

一段と高い声で笑ったり金切り声をあげる。

そんな軽率な人間とはうまが合わないのだ。

それに有名人だからどうだと言うのだ。

有名人だから特別扱いして当たり前だと周りの者は思っていないか?

それが逆に当人には鬱陶しい場合があるということだ。

きっと誰にも知られていない一般人でいたいと思うこともあるに違いないのだ。

葦野はこの仕事はきちんとやる自信があった。

何故なら有名人をどういう風に特別扱いするのか彼女自身知らないからだ。

初出勤ながら彼女はこの仕事を順調にこなした。

何人か目に若手女優の青山桜(あおやまさくら)を案内することになった。

本名と芸名が一致しているし、なにより何度もメディアに登場する顔だから、葦野もよく覚えていた。

清純派女優で水着姿になったこともない。

顔も体も服装も清楚で男性ファンが多い。

確かに何本も映画の主役に出ているだけあって、全身からスターのオーラーが出ている。

けれども葦野はことさら平静を装って、ごく普通に応対した。

「青山桜さまですね。

健康診断Aコースを受診なので、身長・体重・聴覚の後、MRIに行きます。

検尿や血液検査、そしてオープションの心電図はその後になります。

どうぞこちらへ」

案内には最低限のことしか話さないので、葦野には却って楽だった。

別に話し相手になる必要もないし、お世辞を言う必要もない。

たまにそういう葦野に色々と話しかけて来る者もいたが、その場合はこう言うことにしている。

「申し訳ありません。

私達はお客様と必要最低限のことしか会話できないことになっておりますので」

一般人なら、そのあまりにも事務的な態度にむっとするところだろう。

だが有名人には、却ってこの態度が気に入るのだ。

「あなた、葦野さんと言うの? ここに来て何年目?」

「私のこと知ってる? ほら金曜日のドラマに出ているんだけれど」

例えばこういう風に話しかけて来る場合もある。

だが、それに乗ってしまっては駄目なのだ。

検査を受けた患者には後でアンケートが配られ、名指しで職員の対応がどうだったか調査されるのだ。

身長も体重も声を出さずに測り、黙って記入する。

それをカードに書き込んで本人に持たせ、次の所へ行く。

この青陰検査センターが注目を集めるようになったのは、健康診断にMRIが義務付けられるようになってからだ。

MRIには患者個人の体の情報がこと細かく読み取られるので、絶対漏洩してはいけないのだ。

 


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