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末廣屋
【SF その他小説】

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3年と3月後-1

それから3年と3月が過ぎた。

末廣屋とは目と鼻の先に『はな団子』という新しい看板の店があった。

店内は大勢の客で賑わっていたが、3人ほどの人相の良くない男たちが中央に座って怒鳴り散らしていた。

「おい、女。茶の中に虫がへえっていやがった。こんなもの飲めるか!」

お茶汲み女はおろおろして新しい茶と取りかえようと近づいて来た。

その足下に茶碗を叩きつけると、男達は立ち上がった。

「団子もまずいし、茶は飲めねえ。これをどう始末をつけてくれるんでぃ」

他の客たちが席から立って店から出て行く。

「おう! なんとか言ったらどうなんでぃ」

「まずいのはお前達の舌がおかしいからだよ」

「何を。 だ……誰だ。今、言った女は? 出て来い」

すると店の奥から17・8の目が醒めるほど綺麗な娘が出て来た。

立派な身なりからして使われている女ではないようだ。

「あたしはこの店の主のはなと言う者だよ。

あたしの店にいちゃもんつけて小遣いでもせびろうって魂胆かい。

もう一度言ってごらん。お茶の中に何が入っていたって?

団子の味がどうだって?」

「ああ……何度でも……」

男はそこまで言うと、その先が出なかった。

女主人のはなの目に見据えられると、言葉が出なくなってしまうのだ。

「まずい団子ならどうして最後ま食べたんだい? 

お茶に虫が入っていたなら、何故見せずに、茶碗ごと投げ捨てるんだい?

どうせ店を荒らしに来るんならきちんと仕込んでおくれな。

いったい誰の差し金でのこのこやって来たんだい」

男たちは顔を見合わせたが虚勢を張って、言った。

「俺たちを誰だと思ってるんでい。 政吉親分のとこの者だ。驚いたか」

はなは口に手を当てて声を立てずに笑った。

「驚きやしないよ。親分さんに言っとくれ。用があるんなら自分でおいでとね。

それともあたしに会うのが怖いのかいってね」

そのとき男達の目に変化が起きた。はなははっとして背後を振り返ろうとした。

「怖いもの知らずたあ、てめえのこった」

はなは首筋にひやりとしたものを感じた。刃物の冷たさだ。

「振り返るんじゃあねえ。おい飛松、女の目を手ぬぐいで隠すんだ。

しっかり縛るんだぜ」

「へい、親分」

はなは迂闊だったと臍を噛んだ。向こう傷の政吉というのは狡猾な男だと聞いている。

最初の3人は陽動作戦の囮で、本体は物陰に潜んでいたのだ。

手ぬぐいで目隠しをさせられると後ろ手を縛られ、男達に囲まれるように連れて行かれる。

店から離れる時、店の中が壊されている音が聞こえた。

「おい、そのくらいにしておけ。大事なしのぎの元になる店だ」

政吉の声で物音は止んだ。どういう意味なんだ? はなは考えようとした。

「なあに、お前が俺の妾になれば、一生懸命俺の為に稼いでくれるって寸法よ」

はなは思った。私はやくざの妾にされるのか? 嫌だ。誰がそんなこと。

だが、はなのそのプライドが却って自分を窮地に追い込んでしまうことになろうとは、彼女自身気づく訳もなかった。



その日遅くなって末廣屋の勝手口に現れたのは変わり果てたはなの姿だった。

最初にはなに気づいたのは女中のまつと下男の末蔵だった。

襟元ははだけ袂は引きちぎれ、乱れた髪に体のあちこちに擦り傷や打撲だらけ。

一体何があったのかその姿を見ただけで想像ができた。

「利吉義兄さんを……」

そこまで言うとはなは地べたに崩れ落ちた。

「はなお嬢様!」

まつがはなを抱き起こしている間に、末蔵が利吉を呼びに走った。

利吉は女房のあやと共に裸足のまま駆けつけた。

「はなさん、いったい誰がこんなこと」

利助の問いにはなはゆっくり言った。

「姉様たちも危ない……政吉の妾になるのを断ったら、みんなであたしを……

お願い山本甚左衛門の墓に祈って……」

「はなさん、どうしたんだ? まさか」

利吉は義妹を抱き寄せた。その着物の胸から血の染みが広がっている。

あやは胸の中を覗いた。

「自分でこっそり短刀を刺して自害したらしい。なんてことを!」

いわゆる失血死ではなは絶命していた。


 


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