〈三匹の牝豚〉-9
{おう?なんじゃ?急に甘えだしおったぞ?}
サロトは抵抗を止めて腕を頭に絡ませてきた瑠璃子に戸惑い、専務に問い掛けた。
こんな事をした女性は今までに一人として居なかったし、サロトの想定の外だったからだ。
{この娘は「姉の麻里子の非礼を詫びたい」とずっと言ってましたからねえ?犬でも豚でも何にでも為ると……}
サロトは左手で瑠璃子の前髪を掴むと、力任せに振り向かせて右手で顎を捕えた。
キリリとした眉は麻里子を彷彿とさせ、クリクリとした大きな目と、低いながらに通った鼻筋は幼さの中にも色香を漂わせる。
そして口角の上がった薄い唇は、汚れすら知らぬ清純さに満ちていた。
{……可愛いのう}
{きゃッ!!うぶぇ!!……ぶ…んぷぷッ!!}
「!!!」
サロトは両手でガッチリと固定したまま、瑠璃子の唇にむしゃぶりつき、ベロベロと口の中を舐め回していった。
突然の接吻に、瑠璃子は思わず押し退けようとしたが、脂汗に塗れたハゲ頭はズルズルと滑り、とても退けられるものではない。
『なんだあ?あの女、淫乱なんじゃねえのか?』
『あんなハゲオヤジに胸を揉まれたくらいで大人しくなりやがって……』
『妹も姉に負けねえ変態だってことさ。牝豚姉妹なんだろうぜ?』
タムルの部下達は日本語を知らぬので、先程の専務の言葉の意味を理解出来ない。
瑠璃子の正義感と優しさを逆手に取り、弱みを握って淫らな牝に操っている事を知らないのだ。
{クックック……カメラの向こうで、今のお前をモニターで見てる奴がいる……}
瑠璃子は接吻の最中に専務の囁きを捉え、視線をあわせた。
この一連の事件の首謀者ともいえるハゲオヤジと、まるで恋人同士のように絡み合う姿が、誰かに観られている……。
それはあの船の中での見世物行為より、遥かに羞恥を感じさせる恥辱……架純は自分の為の犠牲的な行為だと解ってくれていただろうが、今のこの振る舞いは、きっと助けに来てくれると願う“誰か”の思いを踏みにじるもの……ようやくサロトは離れ、瑠璃子は専務をキッと睨んだが、それは苦し紛れな言い訳にも似た、自分を正当化する為のポーズに過ぎなかった……。
{さあ、サロト様。仰向けに寝て下さい。今からこの娘がご奉仕してくれますから……}
瑠璃子には某国の言語が解らず、専務とサロトの会話が解らない。
だが、自分を貶め、首輪や枷に見合う行為を強要する事だけは分かっていた。