すみ-3
景色だけでなく空気も変ったのだ。
からからに乾いた空気が、妙にじっとりとした蒸し暑いものに変っていたのだ。
そして周囲の白茶けた色が濃い緑色になっていた。
周りは見たこともない木や植物に覆われて虫や鳥の声で一杯だった。
そして振り返ると目の前には濁った水の海がどこまでも続いていた。
「これはどこの海なの? こんなに泥で汚れた海なんて見たことがない」
「これは海じゃございやせんよ。とてつもなく大きな川なんでさ。
向こう岸が見えないくらいの大きな川で、恐ろしい魚や龍が住んでいるんでさあ」
「こんなところじゃなくて元の長屋に戻しなさい。
それにもう嫌らしいことをするのは許しません」
利助は盛んに周囲を気にしながら声を潜めて言った。
「すみお嬢さん、これからあっしの言うことを良く聞いてくだせい。
あやお嬢さんのときにも同じようにあっしを目力で従わせようとしたんで。
すると2人とも辺り一面雪と氷の世界に飛んで行ってしまったんでさ。
あっしは自分の身1つと軽い荷物ならどんな遠いところでも一瞬に飛んで行くことができやすが、人間を運ぶことはできねえ。
ただ、相手があっしが抱きたいほどの良い女のときは、その女ごととんでもない所に飛んで行ってしまうんだ。
それはあっしの気持ちとは関係なしににいきなり起きてしまうことなんでさ。
そしてその女人を元の場所に戻すには、女人を抱いてあっしの中の男を満足させなきゃいけねえ。
そういうことなんでさ。
さっきお嬢さんの胸を触って狼藉を働いたのは、あの場所から少しでも安全な所に移る為にしたことなんですが、あの程度では元の場所には戻れやせんので。
つまり、お嬢さんが嫌でもあっしがお嬢さんを抱かない限り、お嬢さんは元の世界には戻れることができねえんだ」
すみは驚いた。そして顔が真っ赤になった。
「な……なんということを。お前はあの……男と女が裸になってする、あのことを言っているのかえ?
あの枕絵に描いているような嫌らしいことをしなければあたしを帰さないと本気で言っているのかい」
「帰さないとか帰すとかではありやせん。
あっしの気持ちとは関係なく、そうしなければ帰してさしあげることができねえって言ってるんでさ。
もちろん、お嬢さんは拒むことができやす。
あっしもここに何度も来てお嬢さんに食べ物を運んで来てあげることくらいはするでしょう。
だがね、こういう場所では人は長くは生きることはできねえんでさ
以前、どうやったら戻すことができるのかあっしにも分からなかったことがあって……何度も食べ物を運んだりしたことがありやしたが……
その女はあっしがいないときに水を飲もうとして川に近づき龍に食われてしまいました。
戻ったときには頭だけがちぎれて川べりに転がっていたんで。
だから、お嬢さんにはそんな恐ろしい思いはさせたくねえんで」
すみは利助の話しの恐ろしさに身震いした。
「お前はなんという恐ろしい話をするの。
それじゃあ、あたしがお前を拒むことができないじゃないか」
「ここにはオロチも人食い猫もいやす。槍や毒矢を使う野蛮な民もいやす。
こうしている間も危険は迫っているんで。
お嬢さん、今決心してくだせえ。あっしに体を預けやすか」
すみの体は熱病にかかったように全身がぶるぶると震えた。
両目から涙が溢れて来たが、気丈にも拭おうとせず利助を睨んだ。
「お……お前の言うことは分かった。そうか、そうやって姉様も抱いたのだな。
そして元の世界に姉様を戻した。
だからお前が約束を守る男だということはわかる気がする。
お前は姉様を抱いたことを誰かに漏らしたか?」
利助は首を振った。
「お互いこのことはなかったことにしようと約束しておりやす。
ですから、もし戻ってもこのことをあやお嬢様に問い詰めないでやってくだせえ」
すみは大きく息を吸い込んでは吐くことを2・3回繰り返した。
「では、男と女がそれをしたとき、当然心配なことが起きる。
それについてはどうする積りなの」
「やや子が生まれることを言ってるのかい?
子種を入れぬようにやる方法を知っておりやす」
すみは目を閉じて腰を下ろし足を前に伸ばし、両手で後ろの地面を支えた。
そして顔を上に向けて細かく震えていた。
「良いんですかい? 」
すみは頬に涙を伝わせながら小さく2・3度頷いた。
利助は、すみを抱き起こすと立たせたまま裾を一気に捲り上げた。
「あっ、恥ずかしい」
すみは両手で顔を覆った。
「なにかあったら、いつでも逃げ出せるように立ったままやらせてくだせえ」
利助の指がすみお嬢様の陰毛を掻き分けて股の奥に入って行く。
「あ……う……」