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末廣屋
【SF その他小説】

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すみ-2

すみは姉や妹と共に幼い頃から目に魔力のような力を持っていた。

相手の目を見て命じると、相手は自分の思いのままになるのだ。

特に相手が男の場合は効果があった。

それで末廣屋の3姉妹は『目で殺す』と戯れ歌に歌われるようになったのだ。

だが、3人はこの力を乱用しないようにお互い心がけていた。

だから戯れ歌に歌われても、それは姉妹の美しさ故の色香の力だという意味に取られていたのだ。

実際3姉妹は一目見ただけでも十分に男を虜にする美しさを備えていたのだから。

半月ほど前長女のあやが小女のまつと一緒にでかけて行き、その日の遅くに戻って来た。

手には祖母さまの手紙と3姉妹への土産を持っていた。

「お祖母さまの還暦のお祝いを届けたところ、お礼に京菓子を下さったのよ」

また手紙には3人への言葉が祖母の字で書かれていた。

「京へ手紙と品を届けて、その返事と土産まで1日で持って帰るなんて信じられない」

すみや末娘のはながそう言うと、あやは言った。

「虫のしらせは千里を走るというでしょう? 虫飛脚はそれができるの」

「それが本当なら、その利助という男を私たちの家来にしてしまえば、国中のあちこちから土地の名産を取り寄せることもできるわ」

すみがそう言うとあやお嬢様は弱弱しく笑った。

「私もそう思ってつい力を使ったの。その結果は散々よ。

だから決してその利助という男には私たちの目力を使ってはいけないわ。

女の大切なものを失うことになるから」

そう言った後、あやはついうっかり口を滑らせてしまったとでも言うように口に手を当て奥に引っ込んでしまった。

そう言えば、あやお姉さまの様子がおかしいのにはすみは気づいていた。

もしかして女になったのではとすみは勘を働かせたのだ。

そして盛んに物思いに耽っている様子は恋患いのようにも思え、すみは確信したのだ。

きっと利助があやお姉さまを女にしたに違いないと。

とすれば、責任をとってもらわなくてはいけない。

あやお姉さまは跡継ぎになる長女だから、利助には婿に来てもらわなくてはいけない。

そう言った事情ですみは長兵衛長屋に乗り込んで来たのだ。

それがどういう訳か見知らぬ場所に1人置き去りにされる結果になった。

実際はそれほど長い時間は経っていないのかもしれなかった。

だが、すみにしてみれば気の遠くなるような長い時間に感じられた。

前後左右全て白茶けた砂原で、砂浜なのに海が見えない。波音も聞こえない。

聞こえるのは時々砂を飛ばして吹く微かな風。

それとて照りつける強い日差しを和らげてくれるものではなかった。

「あっ」

それは下から吹き上げた突風だった。

袂で顔を覆っている積りだったが、暑い光を避けるためで下からの砂埃には備えがなかった。

目に入った砂が激しい痛みになって、目が開けられない。

しかも暑さと疲れからか頭がぼうっとして気が遠くなってきた。



すみは逞しい腕に抱き起こされていた。日差しもそれほど感じない。

だが顔に何か被さってくる感覚がした途端、かさかさに乾いた唇がひんやりと柔らかいものに包まれた。

それは男の唇らしい。途端に口の中に水が流れ込んで来た。

すみは思わず喉を鳴らしてその水を飲む。

だが、自分が利助に口うつしさせられていることに気づき、もがいた。

何をする。 姉様の婿になる男があたしに口吸いするなんて!

「口吸いじゃあありやせん。水を飲ませなきゃ死んでしめえやすから。 

それよりすみお嬢さん、目をどうかしたんですかい?」

「これは砂が入ったのよ。

でも無理に擦ると目が傷つくから涙で流れ落ちるのを待ってるの」

「ちょっと我慢してくだせい。あっしが取ってさしあげやす」

「えっ、取ってさしあげるって。何をする積りなの」

すみは利助に瞼をめくられさらに瞼の裏を舌で舐められた。

「嫌、いや! きゃーっ」

「いま水をかけるので、目をぱちぱちしてくだせい」

目が見えるようになったすみは目力を強くして利助を睨んだ。

利助は日傘をさしてすみを介抱していたのだった。

「さあ、一刻も早くここから元の所にあたしを戻してちょうだい」

すると利助はいきなりすみの袂の脇の下から手を入れた。

「何をするの? 女の着物の身八つ口に手を入れるなんて。おやめ!」

だが利助はすみの命令を聞かず、いきなりそこから胸に手を入れて乳首を探り当てて摘んだ。

「ひやっ! 嫌らしい。利助、お前は姉様にも同じことをしたのね。

おやめ、おやめったら」

「やめろと言われても、ここから出るにはこれしか方法がないんでさあ」

「嘘! お前はあたしの体を触りたいだけでしょう。

お前はこうやって知らない所に女を連れ込んでは手篭めにしてたのね」

だが、すみは辺りの景色がまたしても変ったのに気づいた。

 


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