赤塚沙樹と母親の犬 第3話-1
お母さんが部屋に戻ってきた。お母さんの横には、どこかで見たことのある犬が一匹いた。
「ごめんね、遅くなって。」
そう言ってお母さんは席に着いた。隣にいた犬もお母さんの横にお座りした。私はお母さんの顔を見ながらも、チラチラとお母さんの隣にいる犬を見ていた。見覚えのある栗毛色の大きなゴールデンレトリバー。
(あッ!あれって名波さんちの…。)
それは私の家の向かいにいた名波さんの飼い犬『ケンタ』だった。ちょうど、お母さんがいなくなると同時に、ケンタもどこかに行ってしまったようで、何度か名波のおばあさんが私の家にケンタを知らないかと尋ねられたことがあった。
(でも、どうしてお母さんと一緒にケンタが暮らしてるの?)
「うん、そうよ。この子はあなたのよく知ってるワンちゃんよ。名波さんのうちの、ケンタ…。」
私はいつのまにか、隣にいるケンタばかり見ていたらしい。お母さんはそれに気が付いて、そんなことを私に言った。
「なんでここにいるの?」
私は聞いた。お母さんが名波さんのうちのケンタの世話をよくしていた。そのことは私もよく知っている。でも、どうしてお母さんの家にケンタがいるのか、それがわからなかった。