赤塚沙樹と母親の犬 第2話-1
離婚後、行方不明だったお母さんの行方を調べて貰おうと、私は興信所にお母さんの行方を調査を依頼していた。
大学入学を控えたある日、興信所の人から私に電話があり、私は待ち合わせの喫茶店にやって来た。
「ええ、お母さん見つかりました。」
「そうですか、よかった…。」
若い女性がモゾモゾとカバンから資料を机に置いて、調査の説明を始める。
お母さんは随分と田舎に暮らしているようだ。そこでお母さんは犬と二匹で暮らしているそうだ。
「あの、お母さんと会えますか?」
興信所の女性の話を遮って、私は言った。
「ええ、その事も聞いたんだけど条件があってね。あなたと会っても良いと。ただあなた以外の親族とは会わない。もし、あなたが私の所に来るんだったら、ひとりで来て欲しい。あと、来る前にこの番号に連絡してほしいと。あとは、電話で全部説明するからとおっしゃってました。」
そういって、若い女性は2枚の紙を手渡した。一枚は調査契約完了の書類、もう一枚は電話番号がかかれたメモ用紙だった。
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電話をするとすぐに、聞き覚えのある声が聞こえた。
「お母さん?」
「ええ、そうよ、沙樹。」
久しぶりに聞くお母さんの声に戸惑い、私はなにから話していいのかわからなかった。
とりあえず大学に入学したとこやひとり暮らしを始めたことを話し出すと、お母さんはうんうんと相づちを打ちながら、ジッと私の話を聞いていた。
しばらくの間、私はとりとめのない話をしていた。少しずつ話題が無くなり、遂にお互いの間に静かな時間が流れ出した頃だった、お母さんが私に言った。
「沙樹、私に会いたい?」
「うん、会いたい。」
私は反射的に答えた。それは私が言いたくても言えなかったことだった。
「そう…。」
お母さんは小さな声でそう言うと、私にある駅名と待ち合わせの日時を言ってきた。
「じゃあ、その日に…。」
「わかった、その日に!」
それで電話が終わった。
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待ち合わせの場所にやってきたお母さんは私が最後に見たお母さんより健康的で元気だった。
「久しぶりね、沙樹。」
「うん…。」
私は小さな声で言った。お母さんはそんな私を見て、微笑みを浮かべながらパンパンと私の肩を叩く。
「うちにくる?」
お母さんが私に尋ねた。私は『はい』という代わりに首を縦に振った。
「そう、わかった。」
お母さんは私の肩に手を回して、歩き始めた。
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「どうして、こんなことになっちゃったの…?」
震える声で私は言った。私は真相を知りたかった。
私がお母さんに会って、直接聞きたかったこと。どうして、お母さんが私を捨てて出て行ったのか、その理由をどうてもお母さんから直接聞きたかった。
お母さんはひとつため息をついた。そして、コップのお茶に口をつけてから、言った。
「わかった。少し待ってて…。」
お母さんはそう言うと、席を立ち、どこかに行ってしまった。