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It's
【ラブコメ 官能小説】

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△△△-3

「湊…」
お風呂から出てダボダボの湊の部屋着を身に纏ってベッドに寝そべる。
「ん?」
「湊に一生に一度のお願いがあるの」
「くだらねーことで一生に一度のお願いなんか使うなよ」
「だってそーしないと湊がいいよって言わないから、絶対」
「あそ。で、なに?」
「山口有沙ちゃん知ってるでしょ?」
陽向が言うと、湊は驚いた顔をして「なんでお前が知ってんの?」と言った。
陽向は今日山口真澄と会ったことを話した。
「だから、優菜ちゃんの居場所がわかったら、一緒に有沙ちゃんのとこに行ってほしいの」
「あいつと2人では絶対行かねー」
「わかってるよ…だから、あたしも行く」
「は?お前あいつにどんなことされたか分かってんの?!そんなんでよくそーゆーこと出来るよな」
湊は怒って陽向を睨んだ。
「そーだけど…もうへーきだから…。お願いだから…」
泣きそうになる陽向を見て湊は「考えとく」とだけ言って、そっぽを向いて寝てしまった。
陽向も湊に背を向けて寝る。
が、寝れない。
やっぱり、言わなきゃよかったかな…。
絶対に怒ると思った。
どうしたらいいか分からなくなってしまう。
ぐるぐると考えていると、湊に後ろから抱き締められた。
「起きてる?」
「……」
「俺と約束してよ」
「…なに?」
「行くんなら、絶対あいつと2人になるな。俺から離れんな」
陽向は潤んだ瞳から涙を零した。
「…ありがと」
「そんなんで泣くんじゃねーよ…ホント呆れるわ」
「ごめん…」
「お前の優しさに呆れる」
湊は陽向の身体を自分の方に向かせて「一生に一度のお願いはもう使えねーからな」と言った。
「ありがと…本当に…」
湊は今、どんな気持ちなんだろう。
考えたくない。

土曜日、陽向は花井に指定されたカフェに予定より15分程早く着いてしまった。
かんかん帽を被っていると伝えてあるが、このカフェ内には同じような帽子を被っている人がもう1人いる。
気付くだろうか。
アイスコーヒーのストローをくわえた時、後ろから「風間さんですか?」とハスキーボイスで問われた。
「は、はいっ!」
振り向くとド金髪のスレンダーな女が立っていた。
「え…」
「はじめまして、花井早希です」
フワフワ系のイメージだったので度肝を抜かれた。
見た目とは裏腹に、落ち着いた丁寧な挨拶をされて戸惑う。
「は、はじめまして。風間陽向です…」
おずおずと挨拶する。
「すぐ分かりましたよ、風間さん。イメージ通り」
どんなイメージだよと問いたくなる。
「あはは。同じような帽子被ってる人があそこにもいたから、分かるかなーって心配してました…」
「真澄姉さんから話聞いてたからすぐ分かりましたよ。ショートカットの小柄な子って」
店員がやって来て、花井に注文を問う。
「アイスコーヒーのブラックで」
「オトナですね」
「そーゆー風間さんもブラックじゃないですか」
「あはは、まぁ」
花井は優しく微笑んで「五十嵐のタイプも変わんないねー」と言った。
「え?」
「昔っからショートカットで小動物系の子が好きみたい。でも、風間さんは今まで見た中で一番可愛いかも」
「はは…そうですか」
いやいやいや、こんな話をしに来たんじゃない!
陽向は「あの…」と話を切り出した。
「花井さん、優菜ちゃんとは仲が良かったんですよね?」
「最初は。でも、有沙が死んでからはあの子おかしくなっちゃって、それからは何も反抗出来ずに結局言う通りに動くしかなかった」
「……」
「風間さんの話は真澄姉さんから聞きました。ごめんね…」
「花井さんが謝ることじゃないです…」
「私たちが止めとけば、こんなことにはならなかったと思います…」
「……」
花井は店員が持ってきたアイスコーヒーに手を付けず、俯いたままだった。
「優菜ちゃんは…今どこに?実家にいるかもしれないって事は聞いてるんですけど…」
「それは間違いないです。8月に、実家に帰るからもう会えなくなるってメールが来て…」
「住所とか電話番号は分かりますか?」
「それは、分からないです…」
それを手掛かりに家を探し出そうとしていたのに、分からないと言われてしまえばそれで終わりだ。
「学校…」
「え?」
「学校になら保管してあるかもしれない」
花井は真剣な目で言った。
「高校ですか?」
「はい。ここから少し遠いけど…」
「…行きます!」
そこからの行動は早かった。
電車を乗り継ぎ、海沿いの高校まで花井と共に向かった。
秋晴れの陽射しが心地良い。
静かな波の音が響き渡る駅のホームに降りる。
長い坂道を登りきったところにその高校はあった。
校庭では高校生達が部活をしている。
陽向は花井の後ろをチョロチョロと歩いた。
職員玄関に辿り着き、用件を伝えて中に入る。
「すみませーん…林先生いますか?」
花井が、あの頃の担任だったという林先生の所在を確認すると、近くにいた年配の先生が林を呼びに行った。


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