第一章 プロローグ-1
中央アフリカ東部に位置するタンザニア北部のタンガニーカ東岸に流入するマラガラシ川を、一隻の長さ三十メートル以上はある豪華クルーザが時速十数キロで航行していた。
船上には小型プールが造られ、超ビキニ姿の若い女達が、黄色い声を発しながら光り輝く水面で水飛沫を上げていた。彼女達の姿をプールサイドからひとりの若い男が、業務用のビデオカメラで撮影していた。
すぐ近くに置かれたテーブルでは、海水パンツ姿の男達二人が、女達の姿に鼻の下を伸ばしながら、冷たく冷やしたビールを大ジョッキで飲んでいた。
ひとりは白髪交じりの長髪で、気障なサングラスをかけた痩せ型の中年男であった。もうひとりは、三十代前半ぐらいに見え、筋骨逞しく短い黒髪にブルーの瞳を持つ男であった。
「アキラ。どうだ?日本の女は美しいだろう?」
痩せ型の中年男が、黒髪にブルーの瞳を持つ男に話しかけた。
「そうだな。肌がきれいだ。それにスタイルもいいな」
アキラと呼ばれた男は、空になったジョッキをテーブルに置いた。
「何しろトップグラビアアイドルだからな。顔は言うことないし、スタイルも白人女に引けをとらない。どの娘がタイプだ?」
中年男は、アキラという名の男に顔を近付けながら尋ねた。サングラス奥の目が笑っている。
「皆可愛いが、エリが好みだ。加藤さんは誰が好みなの?」
「エリか。彼女は一番の売れ子だよ。俺は美奈が可愛いと思う」
加藤という名の中年男が、サングラスを外し、手の平で強烈な日差しを避けながら、女達の姿を舐めるように見詰めながら言った。
「ねえ。そんなところでヒソヒソ話なんて、い・や・ら・し・いわよ」
真っ赤なビキニを身につけたエリが、満面の笑みを浮かべながら、二人に近付いてきた。二人の手を取り、プールの方に引っ張った。ふたりの背後に回った美奈が、体当たりをかませた。
四人は大きな水飛沫をあげながら、プールに飛び込んだ。四人の男女は強烈な日差しを浴びながら、奇声を発し、大げさに笑い、手足を絡ませた。
「ゲームをしないか?」
水遊びに飽きた加藤がプールから上がった。
「どんなゲーム?」
エリは興味を抱いたようだ。加藤がエリの手を引いてプールから引き上げた。
「アキラ。船長に少しの間、船を止めるように行ってくれ」
五分後、デッキには四人の女達と加藤にアキラが立ち、ゆったりと流れる水面を見詰めていた。加藤がセカンドバックから、一挺の黒光りする拳銃を取り出した。
「三五七パイソンだ。いい銃だよ」
加藤は生粋のガンマニアだった。日本では合法的に所持が不可能な拳銃を渡航の際、密かに入手していた。
「拳銃なんて、違法じゃないの?」
「ここはジャングルのど真ん中だよ。うるさい事言わないの。アキラ、ビール瓶を上流に向けて投げてくれ」
「いいよ」
アキラがビール瓶を三十メートルくらい上流に放り投げた。加藤がパイソン四インチマグナムを構えた。十メートルくらいに近付いたビンに狙いをつけた。耳を劈くような銃声がして、ビンの近くに水飛沫が上がった。
「何だ。当たらないじゃない」
美奈が馬鹿にしたように言った。
「撃つのは初めてなんだ。ハワイに行ったときに機会を逃してね」
「貸しくれ」
アキラがパイソンを借り受け、一瞬狙いを付けて引き金を引いた。水面を漂っていたビンが粉々になった。
「カッコいい!」
エリがアキラの背中に抱きついた。
「私にも撃たせて」
美奈がアキラから銃を借り、両手で構え水面に向けて引き金を引き絞った。轟音が響き渡り、美奈はその場に尻餅をついた。
「玩具じゃないんだよ」
加藤が美奈からパイソンを取り上げ、抱き起こした。
「ゲームって、どうするの?」
エリが加藤に尋ねた。
「皆で射撃の腕を競うんだ。勝った者は誰でも好きな相手にキスをするんだ。でも止めておくよ。アキラが勝つに決まっている」
「アキラだったら、いつでもキスしちゃうわ」
エリが言ってから、俯いて頬を赤らめた。
「そうだよな。二枚目が羨ましいよ。まったく」
「飲み直しましょうよ」
アキラが加藤の肩を軽く叩いた。