師弟の病名、教えます。-7
***
――翌日。
「いらっしゃいませーv」
白いエプロンと布製の羽根飾りをつけたウェイトレスは、「お二人さま……ですか?」と、微妙な顔をした。
「はい」
ニコリと優雅な笑みをヘルマンが浮べる。
まったく、お師さまの外見は非常に便利だと、ルーディは苦笑した。
この店に男二人組の客は珍しいと思うが、ウェイトレスは頬をかすかに赤らめ、そそくさと静かな良い席に案内してくれた。
店内はピンク色のペンキを塗った椅子に、テーブルには白いレースの縁取りをしたピンクのテーブルクロス。壁紙に窓枠まで全てピンク、ピンク、ピンク!
メルヘンチックな店の天井では、店の看板キャラクターのピンクうさぎが、あいかわらず呑気にウインクしていた。
ここは美味しいケーキや焼き菓子で有名なカフェ、ロサ・プリマベラ。
客は若い女の子たちばかりで、賑やかな笑い声が満ちている。
「またここに、君と来る羽目になるとは……」
新聞で顔を隠しながら、ヘルマンがぼやく。
「場違いだけど、女の子に人気がある店だから。仕方ないですよ」
ルーディの前には、大粒ブルーベリーをふんだんに使ったタルトが置かれている。
本日はラヴィのデート相手にヤキモチを妬かなくてすむせいか、ちゃんと美味しい。
チラリと見た遠くの席では、ラヴィとサーフィが見た目も可愛いケーキを前にはしゃいでいた。
「それにしても、お師さまだって大人げない」
サーフィとラヴィが女同士のお買い物に行くのを、ヘルマンは宿でにこやかに見送った。
『僕も今日は一日、ルーディと過ごしますので、ゆっくりしてきてください』
そう言って、ルーディとイスパニラ王都の主要地点を真面目に調査していたくせに、お茶の時間になる頃には我慢できなくなったらしい。突然ルーディをせかし、彼女達の匂いをたどれと命じたのだ。
ピンクのティーカップで紅茶を飲んでいたヘルマンが、ふうっと溜め息をつく。
「ええ、その通りです。師弟そろって情けない」
「はは……」
「もちろん、サーフィがそこらの暴漢風情に負けるなどありえませんし、声をかけられたからといって、ほいほい付いていくとも思っておりません」
ルーディが覚えている限り、何が起きてもいつも冷静だったアイスブルーの瞳に、わずかな動揺が浮かんでいた。
「ですが、まぁ、万が一……もしかしたら、こんな異国で困ったことにならないとも限らないでしょう」
「そ、そ……ですね……」
思い切り笑い転げたいのを、肩を震わせてルーディは必死に耐える。
ラヴィが可愛すぎるのは勿論だし、サーフィも十二分に魅力的な女性だ。しかも今日は二人ともオシャレをして、親友と出かける喜びで笑顔も更に輝いている。
ルーディだってラヴィを見送った時、変な男に声をかけられないか不安になったほどだ。
それでもまさか、ヘルマンまでこんな風に心配するとは思わなかった。