出逢い-8
「そうか!じゃあ、道具は用意しとくから」
「う、うん……」
海人の嬉しそうな顔を見て、結局、僕には断れなかった。
僕達は、元来た道を後帰る。黄色かった空は、少しずつ朱色に塗り込められてきた。
荷物が増えたせいもあって、足取りはかなり重くなったけど、他愛のないお喋りと気持ちの好い潮風が、道のりを楽に変えてくれた。
「じゃあ、また明日な」
「うん、またね」
路地の前で僕達は分かれた。海人は周回道を。僕は路地へ足を踏み出した。
「ぐ、ぐぐ……」
一人になると、急に収穫の重みが腕にかかってきた。一歩々と路地を登る足がダルくてたまらない。
僕は一人、悪戦苦闘しながら家路を急ぐ中で、妙な気配を後ろに感じた。
「……えっ?」
振り返った先には、昨日のあの人が僕の様子を窺ってた。
「やっぱり」
「えっ?」
彼女は、前を行くのを僕だと認めた途端、にんまりという形容がぴったりな、悪意ある笑顔を見せた。
「やっぱり、昨日の“性少年”だった」
悪意の発言は、偶然の再会を喜ぼうとする僕の出鼻を、見事にくじいてくれた。
「あの……僕、拓海って名前があるんですけど」
確かに、性少年らしい時もあるけど、この人に言われるのは癪に障る。
「知ってるわよ。この先の航太さんの息子さんでしょ。貴方が小さい時、貴方を連れたお母さんと、何度もすれ違った事あるから」
彼女が、昔の僕を知ってるなんて思わなかった。
「じゃあ、何で昨日はあんな言い方したんですか?」
「昨日は判らなかった。たった今、貴方が名乗るまでね」
「それだって失礼でしょ。性少年だなんて」
「あら?違うの」
また、あの悪意ある笑顔だ。僕は、これを機会にして近づけるような話をしたいのに、結局、昨日と同様、彼女のペースに乗せられてしまう。
「あの可愛かった男の子も年頃になって、頭の中はその事でいっぱいなのかなって」
「そ、そんなの言いがかりです!」
「じゃあ、どうしてわたしをじっと見てたの?」
「それは……」
この言葉に、僕は躊躇う。このままじゃ、不味いことになりそうに思えたから。
「──そういう気があったから、見てたんでしょ」
「ち、違います……」
「どう違うっていうの?」
詰め寄る目が笑ってる。昨日は見せなかった感情の表し方。まるで、僕とのいざこざを楽しんでるみたいだ。