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ニンゲンシッキャク
【二次創作 その他小説】

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ニンゲンシッキャク-25

 俺が意地で書かなかった退学届は、いつの間に母親が書いていた。書道師範の免許を持っている母親の字は、とても綺麗で腹が立った。

「チクショーッ!」
ビッ、ビリリリと音を立てて退学届を破り捨てた。





「単身生活」
   ヤマナシ キソウ



 いいなぁ、と言われる。自由だろ、と言われる。羨望の眼差しを浴びる。

「って、何でやねん」
ハッ、と我に返る。俺、今テレビにツッコミ入れた。

 両親はアメリカで会社を経営しているので、俺は一人日本で生活している。(どうやら、儲かっているらしい)中学までは母も日本で暮らしていたが、父の事業拡大でアメリカに行ってしまったのだった。俺も当時、選択を迫られたが英語は絶望的に喋れなかったので爽やかに辞退した。

「ははッ、またかよ」
ハッ、と我に返る。俺、今洗濯機にツッコミ入れた。

 自由というやつは、何かを犠牲にして手に入る物だと俺は思う。ただの自由じゃ、単なる不自由に過ぎない。俺の犠牲は、家事全般。嫌いじゃないが、慣れる事は無さそうだ。

「おいおい、しっかりしてくれよ」
ハッ、と我に返る。俺、今パソコンにツッコミ入れた。

 独り言が多い、今日この頃。





「生きてやる」
     ユゲ ミサオ



 なぜ、人を殺してはいけないのですか。

 わたしはどうしても訊きたい事があって、国語科準備室の前進先生を訪ねた。どうやら先生は、昨日の漢字テストの採点中だった。ブラックコーヒーを片手に、目を細めている。そしてわたしの方を一回も見る事無く、はっきりと言った。
「ああ、弓削さん。どうしましたか、何か相談事でも」
「前進先生、生きる事って何ですか?」
わたしは、先生が話し切らない内に捲くし立てた。先生はわたしを一瞥して、煎餅の封を切る。紙の袋はビリッと破けると、ガサガサと勝手に音を出した。先生はそれを机に置き、答案を片付けると立ち上がった。
「まあ、掛けてお食べなさい。コーヒーがいいですか、それとも緑茶、紅茶にしますか。よくコーヒーが好きな人は、紅茶を好まないと聞きますが。弓削さんは、どうですか」
「要りません、わたしは……」
「長丁場になりますよ」
「手短にお願いします」
「こればかりは、無理じゃないかな」
へらへら笑う先生。これだけ見た目が頼りなさそうな先生は、前進先生しかいないと思う。

「先生は、今自分が生きていると思いますか?」
「哲学的だね、答案にも同じ質問を書いて……。その様子だと、ずっと、考えていたね」
先生は落ち着いて、カップとソーサーを探していた。
「コーヒー……、お願いします」
こうなったら、とことん先生にぶつけてやる。真剣十代、何とかだ。幾らか歳が近いだけで、この思いを吐き出せる気がする。


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