ニンゲンシッキャク-2
確かに嘘を吐くのは慣れている。何時しか、自分自身も騙せる日が来る事を願っている。陣内先生は、ぼくの事を演技派男優と言っていた。世界が騙される程の、自分自身が騙されるほどの俳優にいつか成りたい。
ぼくは、自分以外のどの先生も好きです。
ぼくには、昨日も今日も明日も無い。在るのは、此の身体一つだけ。今日もぼくは高校に行く。何時か行かなくなる日迄。ぼくは生徒が好きです、大好きです。ぼくは世界が好きです、大好きです。
世界に愛されたい。
ぼくは、我儘でしょうか神様。
何方かぼくに御教授下さい、御願いします。御願いします、御願いします、御願いします。
何時からだろうか、自分の中に矛盾が生まれたのは。このモヤモヤとした、吐き気さえする想い。
好きでも嫌いでもない、普通。何を基準としてかは解らないが、素敵な言葉ではありませんか。
普通。
「自殺志願書」
アクタガワ ショウタロウ
ぼくは小説家です。だからこそ、主張したいこともある。
自殺こそ、人間の究極美だと思います。誰しも自殺願望があります。ぼくは、それに対しての文章を遺書と呼びたくありません。ぼくは、そう。それを「自殺志願書」と呼びます。なかなかネーミングセンスがいいと思いませんか。ぼくは、個人的に気に入っています。入学願書の様で、死ぬ事にとても前向きですから。
「前進先生、この文章を添削して下さい」
流石に、これを編集者に見せるわけにはいかない。これは、同士に見せるに限る。そう、前進先生に。
「いいですよ、貸して下さい」
「はい、有難う御座います」
ぼくは、原稿用紙を手渡した。前進先生が感情を表に出した所を、ぼくは今まで一度も見た事が無い。いや、その話さえも聞いたことが無い。死ぬ時でさえ、その表情は変わることが無いのだろうか。いや、変わりそうにも無い。だから、ぼくは心の中で先生を同士と呼ぶ。同年代では、理解しようとしてくれなくとも先生ならという期待を込めて。
「芥川くんは勉強熱心ですね」
「其れ程でもありませんよ、前進先生」
ぼくは、職員室を後にした。
さあ、首尾は良い。胸が高鳴る。エロスとタナトスが反撥を起し合うが、何時も勝利するのはタナトスだ。死がぼくに祝福と幸福を与えてくれる。そう思えてならないのだ。後は前進先生の返事を待ち、死に方を考えるだけだ。どの様な方法がいいだろう、チャンスはたった一度だけ。なるべく、痛みを覚える方がいい。