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ニンゲンシッキャク
【二次創作 その他小説】

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ニンゲンシッキャク-3

「文章は完璧でしたよ」
「有難う御座います」
「齢十七にして、遺書ですか」
「前進先生、遺書ではありません『自殺志願書』です」
「……自殺志願書」
「はい、先生も……前進先生も書いてみませんか」
「ぼくは遠慮しておくよ。しかし、自殺は」
「認めて頂けませんか」
「認めませんよ、絶対」
「しかし、ぼくは独りの人間なのです。尊厳も意思も意図も無く、ぼくは一個の人間なのです」
「それでも良いではありませんか、何を以ってして完璧とするのです」
「人間は生きたいという欲求のエロスと共に、死にたいという欲求タナトスを抱えています」
「それは否定しないよ」
「先生もですか」
「君の定理によればの話だけれどもね」
「………」
「芥川くん、日本人の八割は根暗という話を知っているかな」
「いいえ」
「君が死にたいという気持ちも確かに解る、けれどもそれは一時だけの願望に過ぎない。近い将来、君にも生きていて良かったと思う瞬間が来るだろう。だから、自殺は」
「止めません」

 ぼくは死ぬ。先生も死ぬ。誰しも死ぬ。死ぬことには変わりない。ただ、同じ死ぬなら華々しく綺麗に死んだほうがいいと思うのです。別に何処かの小説家のように、金に困っているわけではありません。小説の話が、無くなったわけではありません。合法麻薬に、頼れなくなったからではありません。愛人が一緒に死にましょう、と言ったからではありません。だから、誰のせいでも何かのせいでもありません。実は、先生だけは解ってくれると思っていたのですが。人生は思い通りにいかない物ですね、先生。

 でも、ぼくは死にたいです。
途轍もなく。
すみません。
ごめんなさい。
先に、失礼させて頂きます。
これしか、方法が見つかりません。
謝ることしか出来ません、何処かの小説家の様に。

 許して下さい、先生。
「九本の矢」
 アケチ ソウイチロウ



 俺が朝起きてからする事。そっと部屋を抜け出し、九つの弁当を作る事から一日が始まる。
「ん……、兄貴おはよう……」
「おはよう、美空。こんな早くに起きなくてもいいから、今日は寝ていなさい。試験勉強で遅くまで起きていただろう」
「大丈夫……、あたしも手伝うよ……」
俺のすぐ下の妹は、言わば幼い兄弟の母親代わりだ。妹のお蔭で、とても助かっている。俺の家族構成、トラック運転手の父・妹一人・弟七人。正に子供だけで、野球チームが出来てしまうという悲しい現実。父は職業柄、滅多に帰ってこない。母は、いない。いや、いないならまだいい。出来れば、死んだ事にしてしまいたい。母親が見知らぬ男と逃げたなんて、どの面下げて幼い弟達に言えばいいのか。
「じゃあ、俺がおかずを作っていくから弁当箱に詰めてくれ。ご飯は炊けているからな」
「うん、解った」
低血圧な妹に、こんな事をやらせているなんて俺は駄目な兄だ。ごめんな、美空だって遊びたい盛りだろうに。俺が駄目だから。
「兄貴、焦げる……」
「あ、ああ……大丈夫だ。ありがとう」
俺は手際良く卵焼きを引っ繰り返す。幸い、焦げは免れた。
「お母さん、帰って来ないね」
炊飯器から湯気が立つ。
「もう、忘れよう。俺達に、それは禁句だ」
「うん……、ごめん」
互いに無言で、弁当を詰めていく。砂糖たっぷりの卵焼き、野菜炒め、鶏肉の唐揚げ、プチトマト、ひじきの甘露煮。多めに作り、残りは朝食のおかずにする。弁当を作り終え、テーブルに朝食を並べた時点で第一回戦は終了する。続いて、第二回戦に入る。
「さ、じゃあガキ共を起こしに行きますか」
「毎朝、戦争だからね」
エプロンを外し、簡単に片付けて制服に着替える。


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