ニンゲンシッキャク-15
「ああ、痛そうですね。平気ですか?」
次の日、前進は俺の耳を見て眉を顰めた。
「あのー、怒らないんスか?」
「傷が化膿しない様に、気を付けて下さい」
「………」
あ、あれ?
俺の通っている高校は申請すればバイク通学可だし、俺はその許可証を持っている。ってことは、そういう格好良い真似は出来ないってことじゃん。勝手にバイク登校、憧れだ……。
「クソー、前進めー。こうなったら、煙草を吸ってやるー」
兄貴の煙草を一本ガメる。勿論、安物のライターも忘れない。
ガシ、ガシッ。
「おおう、煙が……う。ゲホ、ゴホッ、オエ」
け、煙い……ッ。く、苦しい……ッ。
「あーあーあー、東郷くん」
「ぜ、前進ッ!」
驚き過ぎて、声が裏返った。校舎裏なんて定番だけど、どこから見てたんだ一体。前進は俺の右手から煙草を引っ手繰り、足で踏み消した。煙が目に沁みて、涙が止まらない。気付けば、こっち側は風下だった。
「ほらほら、大丈夫ですか」
「うううッ、ゴホ、ゲホッ」
「煙草は体に悪いですからね、肺が真っ黒になっちゃいますよ。それに、身長が伸びなくなってしまいますし。習慣性が付いてしまうと、大変ですよ。お金だって掛かるし」
「ゲェッホ、ゲェッホ……」
俺が膝を付いたまま咳き込んでいると、前進は俺の背中を摩った。そして、俺を抱き起こす。
「はいはい、全くぼくが見つけたからいいものを」
「俺……、停学?」
まだ、上手く声が出ない。
「そんな事はしません」
「な、何で?」
前進のはっきりした声に、驚く。
「君は、初めてでしょう。それに、ぼくに気付いて欲しくてした。そうでしょう?」
「………わりぃかよ」
俺は、まともに前進の顔を見られなかった。
「いえいえ、悪いわけではありません。ぼくにも、その様な時期があった事を思い出しましてね」
前進が? え? 何を?
「どうですか、これからぼくと一杯やるというのは」
にこーッと笑って、俺の顔を覗き込む。僅かに、二宮と似ているなと思った。
「見縊んなよ前進、酒を飲むわけねーだろ」
俺は、舌を出した。
「はいはい、冗談です」
べ、別に気付いて欲しくてとかじゃねーし。
*参考歌詞
「15の夜」尾崎豊
*参考歌詞
「ギザギザハートの子守唄」チェッカーズ
「故郷は名古屋ではありません」
ナゴヤ アン
わたしは、何処へ行けばいいのでしょう。ぽっかりと、穴が空いたみたい。これから何をすればいいのか、解りません。