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ニンゲンシッキャク
【二次創作 その他小説】

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ニンゲンシッキャク-14

「解って、言ってるでしょ」
     テヅカ ワカ



 わたし、名前で誤解されるんです。わたし、思い込まれるんです。名前が和歌だから。しかも和歌って、たまに馬鹿に聞こえる。ちょっとムカつく。

「和歌和歌和歌和歌和歌和歌和歌………馬鹿」
聞こえる。馬鹿って、聞こえる。

「手塚さんって、理系なの? ウソ!」
そんな事で、嘘は吐きません。

「和歌じゃん」
そうだよ。和歌って、三十一文字でしょ? わたしの父親が三十一歳の時の子供だから和歌なの、解って?

 ファースト・インプレッションは顔や服装、ってよく言われるけど。それより深いのは名前だと思うのよ。これは、聞いた話なんだけど凄く珍しい名前の人がいてね。その人ったら、それがネタでずーっと過ごしてきたんだって。例えば面接でも、自己紹介でも名前の由来を言うだけで一発オッケー。何よ、それって感じじゃない? 虐められてはいないけど、名前って凄いセンスが問われるでしょう? だから、難しいのは解るけどもう少し考えて欲しいの。限定されたくないから。
「留年上等」
    トウゴウ トク



 俺、逆らわなきゃ生きて行けないみたいなんだ。何て言うんだろ。不良への憧れ。盗んだバイクで、走り出す? ちっちゃな頃から悪ガキで? 違うな、まだ言葉が足んない。

「はよーッス」
「東郷、何だよその髪」
二宮は、俺の頭を指差して言う。ポニーテールのお前には、言われたくない。二宮はバンドを組んでいるので、髪型は変えたくないらしい。ビジュアル・バンドか? 俺は白髪を一撮み、僅かに持ち上げた。
「おー、染めてみた。いいだろ」
「似合わねー」
「そうかー、いいだろ老人スタイル」
うーん、と唸ってみる。そんなに、似合わないか?
「真っ白じゃん、前進が腰抜かすだろうが」
「あー、前進は真面目っ子だもんな」
朝っぱらからギャアギャアと大騒ぎしながら、問答を繰り返していると後ろに気配がした。振り向けば、前進。
「……東郷くん」
「あ、前進前進。これ、似合うっしょ?」
驚くかなと思って、話し掛ける。前進は話し易くて、結構慕われている。俺が言うのも、何だけど。
「ああ、髪が傷みますよ」
前進は、顔を顰めて言うだけだった。怒るわけでもなく、叱るわけでもなく。至極、残念そうに。言うだけだった。
「それって」
「ええ、禿げますね」

 ガーンッ。俺は教室の中で一人、凍り付いた。

「マジで」
出席簿を小脇に抱えた前進は、俺に止めを刺した。
「いきなりは禿げないでしょうが、今に薄くなりますよ」

 ガーンッ。超ショック! 多分、暫く立ち直れない。

 バチンッ。
「うおぁ、あんま……痛くなかった」
「ビビらせんなよ、十九」
ピアスサーとか何とか言う白い機械を持ったまま、二宮は俺の顔を覗き込んだ。けど、あんまり心配そうな顔してないぞ。こいつめ。
「でも、何か痒い」
「冷やしてるからな、軽い凍傷みたいなもんだろ。大丈夫、大丈夫」
「三つくらい開けるか?」
「おーう、頼む」
バチンッ。
バチンッ。
左耳に三つの穴。


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