ニンゲンシッキャク-13
千里万里の道だって、俺にはたったの一歩だ。君との距離も、俺には関係無い。
あれ。
携帯電話は現在、学生にとって必要不可欠だ。こんな小さな機械一つで、有るか無いかで友達の量だって変わる。俺の父さんは、そんな物で変わる友達は友達じゃないと言うけれど。実際、そうなんだから仕方ない。だって、世の中自体がそうなんだから。俺にはどうしようも無い。
何でだ。
アンテナを引っ張り上げ、悪足掻きをする。これはアンテナのある機種だけの特権、伸ばした先を左右に振る。おい、冗談は止めろっての。辺りは皆、メールや電話をしているじゃないか。何で、何で俺だけ。
圏外なんだ。
アンテナの先を髪と髪の間に押し込み、擦る。擦る擦る擦る。そして、ディスプレイを見る。
クソッ。
窓の外にアンテナを向ける。振る、未だ振る。電波ってやつが見えるわけじゃねえけど。
チッ。
タンタンタンタンッ。
教室を抜け、階段を上って屋上へ。南京錠を打っ壊し、取っ手に手を掛け開け放つ。これはもう、俺の意地なんだ。これが男なんだ、無駄だとしてもやり遂げる。
駄目だった。
「俺、早退するわ。前進に言っといて」
教室に戻り、荷物をまとめながら西東に声をかける。
「えー、万里この後サボりかよー」
「そんなんじゃねーって、じゃあな」
他の事なんか目に入らない。俺は教室を飛び出した。
この後、やることなんて決まってる。
「よっしゃあ、行くぜ!」
男なら、行くしかねぇだろ?
向かうは、総合電波塔。
「剣の道を行くが如く」
ツダガワ マシホ
剣の道は険しく厳しい。達人の道もまた然り。わたしは、其の道を行くのが宿命。
「……はぁッ、はぁッ……」
剣道場の冬は、痛い。まるで、足の指の付け根から切れる様だ。吐く息は白く見え、目の前は霞む。しかし、わたしの鍛錬はこれ如きで済む物では無い。
「勝つんだ、己に勝つ……、敵は目の前では無い……」
「克己……、克己復礼」
わたしは、ただ唱える。父母に恥じぬ様に。祖父母に恥じぬ様に。先生に恥じぬ様に。己に恥じぬ様に。わたしに学は無い。有名な都立に入学したとしても、それは単なる推薦に過ぎない。どの様な有名進学校だとしても、わたしは学業に優れ秀でているわけではない。だからこそ、己を鍛えて報いなければならない。
わたしは、まだまだ未熟だ。いや、一生己には勝てないかもしれない。しかし、いつか引き分けまでに持ち込める日も来るだろう。すれば、先も見える筈だ。
勝ってやる、全てに。わたしに。