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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第7話-16

「5つも年が離れているせいか、どうも過保護になってしまって。本当に妹が可愛くて仕方なくて、つい付き合う相手も厳しくチェックしてしまうんですよね。な?」
「え!?そ、そうなんです。そのせいで男性と付き合ったことが全然なくって……」
冷や汗をかきながら、英里は何とか笑顔を浮かべて辻褄を合わせた。
(いきなり話ふらないで下さいよっ!)
じろりと英里は横目で圭輔を見遣るが、彼は意に介さず、
「と、いうわけで。僕の大切な妹をあなたとお付き合いさせるわけにはいきません」
「は?」
突然の展開に相手の男性は目を白黒させている。
英里も同様に驚きを隠せないでいた。
今までの柔和な笑顔とは打って変わって、すっと表情を引き締めると、
「少なくとも、僕以上に妹を愛してくれると思われる男でないと、渡せませんから。帰るぞ、英里」
一方的にそう言い放って立ち上がると、強引に英里の腕を掴む。
「ご、ごめんなさい。私は、あなたとお付き合いするには相応しくないと思います。今日はせっかく来て頂いたのに、本当に申し訳ありませんでした……」
英里は慌ててそう言い繕い、深々と頭を下げると、圭輔の後に従った。



「あっはははは!!」
料亭から出た途端、満面の笑顔。こんなに大笑いしている圭輔を見たのは初めてかもしれない。
「もう、信じられない、何てことするんですか……っ」
「ごめん、ごめん。あんなに簡単に騙されるとは思わなかったから」
ようやく落ち着いた彼は、指で涙を拭いながら、呼吸を整えた。
もしかしたらおかしいと気付いていたのかもしれないが、仮にも兄と名乗っている男性からあれだけ自信満々に話を振られると、空気に呑まれてしまうのも仕方がないような気がする。
(本当に、ご愁傷様……)
「だからって、やりすぎですよ!普通にお断りするつもりだったのに、もし疑われたらどうするつもりだったんですか……」
英里は口では文句を言いながらも、内心は可笑しくてたまらなかった。
両親がセッティングした見合いをぶち壊しにして、後からどんな事態になるかわからないのに。
夜風が心地良いのか、不思議な爽快感が英里を包む。
二人なら、何だって出来るような気がした。
「その時は正直に話す。だってあんな急に出てきた奴にかっ攫われたら悔しいだろ」
英里は、圭輔の手をぎゅっと握った。
「圭輔さんは、すごいです。私が出来ないことを軽々とやってのけちゃうから。守ろうと思って黙ってたのに、逆に助けられて……」
「助け合うために一緒に居るんだから」
そう言った直後、圭輔も英里の手を強く握り返す。
「そんな、私は、何の力にも……」
「英里は、自分では無自覚かもしれないけどさ、たくさん助けられてるよ。こうやって一緒に居るだけで、すごく満たされてる」
「でも……」
「本人がそう言ってるんだから、素直に信じなさいって」
圭輔は、ツン、と英里のおでこを人差し指で突っつく。
「はーい」
恥ずかしくて、英里は俯き加減に圭輔の横顔をそっと眺めた。
英里はぴたりと立ち止まる。
「……ねえ、お兄さん。どんな男性だったら、私との交際を認めてくれるの?」
まだ芝居を続けているつもりで、冗談っぽく問い掛けてみる。
「そうだな。誰も許さないよ。英里は、俺のだから」
「うん」
英里は、嬉しそうに微笑んだ。
その表情に、圭輔はつい見惚れてしまう。
「あー……あのさ、これから俺んち来ない?渡したいもの、あるから」
時折見せる彼のはにかんだ表情が、何だか愛おしくてたまらない。
断る理由もなく、英里は頷いた。



圭輔のアパートに着き、玄関の中に入った途端、英里は圭輔の逞しい腕に抱き締められた。
「また改めてご両親に挨拶に行こう。結婚、認めてもらえるように。何度だって諦めないよ」
「こんな事しといて、許してもらえるわけないじゃない……」
「それでも、絶対認めてもらうよ」
圭輔は徐に英里の左手を取って口元まで寄せると、薬指の付け根に口付けた。
その行為に、英里の頬はかっと熱くなる。
「ありがとうございます。私も、理解してもらえるように頑張ります。圭輔さん……仕事よりも私の方が大事だって言ってくれた時、少し嬉しかったです」
圭輔は、照れ笑いを隠すかのように俯いた英里の顔を上げさせると、
「そんなの、当たり前だろ」
そう言って、圭輔は英里の長い髪を耳に掛け、紅潮した彼女の頬に触れる。
「もう、俺から逃げないで。全部さらけ出してよ、英里を」
「……はい。あ、あの」
言い出しづらいのか、おずおずと、英里は話を切り出す。
「ん?」
「絢子さんのこと、許してあげて下さい……わざわざ誤解を解きにきてくれましたし、圭輔さんの困ってる人のことを放っておけない優しいところも、お陰でわかりましたから。でも、その……これからは私だけに優しくして欲しいなぁ、なんて」
やきもちを焼いたように、小声で呟く英里の様子を、圭輔はじっと見つめてくる。
そんな彼の視線に気付いて、彼女は慌てたように、
「やだ、恥ずかしいから何か言って下さいよ」
「……英里がそんな可愛いこと言ってくれるなんて、俺、感動しちゃった。嬉しくて泣きそう」
「もう!またからかって……ひゃぁっ!!」
その途端、英里の体がふわりと宙に浮く。
「これから、たっぷり優しくしてあげるよ。英里だけにしか、しないこと」
圭輔に抱き抱えられて抵抗できない英里の額に、圭輔は軽くキスをする。
「そ、そんな、そういうことじゃ……」
「イヤ?」
「……言わせないで下さい」
ソファの上にゆっくりと降ろし、英里の顔の横に両腕を突いて、覆い被さる寸前のような体勢になった圭輔は、上から彼女の顔を覗き込むと、
「聞かせて」


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