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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第7話-15

「英里……」
頬に触れている圭輔の手に、英里は自分の手をそっと重ねる。
ぎゅっと、圭輔は片腕で、英里の体を抱き寄せた。
「英里は、俺のことどう思ってる?」
耳元に唇を寄せ、小声で囁く。
「……好きです」
啜り泣きながらも、英里ははっきりと、淀みない口調で答えた。
圭輔の顔が自然に綻び、張り詰めていた二人の空気が和らぐ。
「でも、俺と結婚はできない?」
「だって、私にはそんな価値ないと思ってたから…」
「何で、そんなに自分の価値とか求めたがるんだよ?俺は、英里が隣に居てくれるだけで嬉しいし、幸せだ」
優しく、そう告げる。
「圭輔さん……私で、本当にいいんですか?」
まだ涙目の英里が、上目遣いに彼を見つめる。
「だからいいんだよ。もう英里しか考えられない」
「……後悔、するかもしれませんよ」
「しないって絶対。それに、させない」
「私、卑屈だし、捻くれてるし…」
「うん」
「素直じゃないし、意地っ張りだし」
「うん」
「家事もろくにできないから、美味しい料理も作ってあげられないし」
「……で?」
「あと、えっと…」
「それだけ?」
「いえ、たぶん他にもまだあるはず……」
「わかった、もう十分わかったから」
圭輔は、まだぶつぶつ呟いている英里の頭に、額をこつんとぶつける。
「だーから、そういうとこもひっくるめて全部好きなんだって」
一瞬の間の後、二人で顔を見合わせて、軽く微笑む。
「私、やっぱり圭輔さんと一緒にいたい。離れるなんて、もうできない」
ようやく、言えた。
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
「あー……良かった。最初断られた時、心臓潰れるかと思ったんだからな」
そう言いながら、圭輔は英里の胸元に顔を埋めた。
「俺、頼りないかもしれないけど、英里の事、一生大事にするから」
顔を上げた時の彼の照れたような笑顔があまりにも愛おしくて、泣き顔だった英里も笑みが零れた。
「……はい」
「愛してる」
「私も……」
優しく見詰め合った後、自然と二人の唇は重なっていった。
英里も遠慮がちに、圭輔の背に手を回す。
安心する、彼の体温。唇が離れ、見つめ合う。
二人ならきっと大丈夫。共にこれから歩んでいきたい。
ふと、突然圭輔が英里をじっと不満げな顔で見つめる。
「どうしたんですか……?」
「いや、何か安心したら俺以外の男に会いに行くのにこんなオシャレしてんのムカつくなーって、急に気になりだして……」
「だ、だってお母さんがこれ位しないとって……仕方ないじゃないですか」
「見合いなんか行かせたくないな」
そう、切ない表情を見せる。
「でも、すっぽかすわけには……」
「んー……となると、残された手はひとつ、か」
困惑顔の英里に、圭輔はそうぽつりと呟く。
そんな彼の表情は、目を細め、口角を上げて微笑んでいる。
また、何か企んでいる、悪戯っ子のような微笑。
「あの、圭輔さん、何を……」
「何つーか奪還?っと、その前に化粧直ししないとだな」
泣いてしまったせいで、せっかく綺麗にメイクしていたのが台無しだ。
それから友人の穂積陽菜に連絡し、ヘアメイクをきっちりやり直してもらった。
さすがプロを目指しているだけあって、出来上がりはとても綺麗に仕上がっていた。
「すごーい、陽菜って器用だね。私には絶対できないよ」
「ふふん、まぁね。これぐらい楽勝よ」
賛辞を謙遜せずに素直に受け取るところが、いかにも彼女らしい。
「でも、ごめんね。英里のこと、騙しちゃって……」
「ううん、気にしないで。陽菜のおかげで、自分の気持ちに素直になれたから。本当にありがとう」
鏡越しに、英里は優しく微笑んだ。
「えええー、や、やだなあ、そんな風に言われたら照れちゃうじゃん!ほ、ほら出来たよ。先生、お待たせしました」
「よし、じゃあ行くか」
「あのっ、圭輔さん!一体何を……」
「まあまあ、英里は心配しなくていいから」
(……だから、その含み笑いが気になるんだってば!)
英里は胸に一抹の不安を残しながら、結局、見合い相手と会う料亭に着いたのは、約束の時間ぎりぎりだった。
既に相手の男性は着いているようだった。仲居に予約していた座敷に案内される。
「遅くなりまして、申し訳ありません。お初にお目に掛かります、水越英里と申します」
「いえ、こちらこそ……」
緊張気味に、形式通りの挨拶を交わす。
「あの、ところで、そちらの男性は……」
見合い相手の男性は、付き添いの若い男の方を遠慮がちにちらりと一瞥する。
英里は緊張を和らげるように一度軽く息を吐くと、
「え、ええと、私の兄、です。両親共仕事で、一人だと心細いから同席して欲しいとお願いして」
英里にしては慣れない演技が気恥ずかしく、俯いていたのは照れ隠しのつもりだったのだが、相手の男性の目には、頬を赤らめて視線を外す彼女が、控えめでとても愛らしく映ったようだ。
「初めまして、兄の圭輔です。妹が落ち着いたところで席を外しますので、どうぞお気になさらず」
いつもの教師のような誠実な表情を装って、いけしゃあしゃあとそう言い放つ。
そうして、即興芝居の奇妙な見合いが始まったのだった。
見合いと称しながらも、結局相手の男性と圭輔がほとんど会話をしていた。
「そうなんですか、僕は教師なんですよ。どんなお仕事をなされてるんですか?」
矢継ぎ早の圭輔の質問に、相手の男性はたじたじとなっている。英里は内心で初対面のその男性に詫びた。


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