夏休みはやめられない-1
自分の名前を呼ぶ声がして、萌恵は目を覚ました。
「比留川さん、起きて。萌恵さん、だいじょうぶ?」
誰かに体を揺さぶられて、うっすらと目を開けると、そこには輪郭のぼやけた女性の顔があった。
「よかったあ」
安堵のため息が聞こえて、目の焦点が合ったとき、彼女がクラス担任の大橋美希であることに気がついた。
「先生……」
「こんなところで昼寝してちゃダメじゃない」
「わたし、いつの間に眠ってたんだろう」
キョロキョロとまわりを見渡してみて、萌恵はある異変に気づく。
「あの人、いなくなってる」
「あの人って?」
「ゆうれ……じゃなくて、図書館のお姉さん。今井遥香っていう女の人」
その名前を聞いて、美希の顔がかすかに真顔になった。
萌恵はつづける。
「大橋先生は、どうしてこんなところにいるの?」
「学校の図書室に持っていく本を選ばせてもらったりとか、まあ、いろいろとね」
それに、と美希は遠い目をして、
「友達に会いに来たの」
肩を落とす仕草をしたが、その表情は明るかった。
「その友達の名前っていうのがね、今井遥香なの」
萌恵は、なるほど、と納得した。
あのお姉さんは幽霊じゃなくて、現実に存在する人だったということになる。