夏休みはやめられない-2
「でもね、2年前にその子に不幸があってね、先生の友達の遥香、今はもういないんだ」
「うそ……」
「大学時代の友達の中でもいちばん仲が良かったから、とっても悲しくて、いっぱい泣いちゃった」
「でもわたし、さっきまでそのお姉さんと……」
「比留川さんには見えたんだね、彼女の姿が」
「わたしだけじゃない。たぶん健太郎くんと、博士くんと、理人くんも見てるはずなんです」
「先生も小さい頃は、お化けとか妖精とか、そういうのが見えていたんだと思う。だけどだんだん大人になるにつれて、人の顔色をうかがったり、まわりの空気を読んだりしなくちゃいけなくなって、見えてたものが見えなくなってった。逆に大人になって初めて見えてくるものもたくさんあって、それはまあ、比留川さんが大人になったときにわかるから」
やさしい口調と、いたわる眼差しを忘れないように、教師は生徒にそう話した。
わかるような気もするし、やっぱりまだわからない部分が多い気がして、自分が大人になるのはもっと先の話なんだろうなと、萌恵は思った。
いけない、と美希は思い出したように小声でつぶやくと、本の列からはみ出している1冊の文庫本を気にとめて、その背中を指でかるく押してやった。
押し花のしおりが挟んである、とくべつな思い入れのある小説だ。
その花の匂いは今もなお枯れることなく、あの頃のフレッシュな思い出を、いつまでも忘れないでいて欲しいと告げていた。