少女-2
「こんにちは、比留川萌恵ちゃん」
いきなり自分の名前を言い当てられて、思わず胸を押さえる萌恵。
ちょっぴりおどろいたけど、心臓はちゃんと動いていた。
「新聞、見たんでしょ?」
勘ぐる遥香。
たぶん2年前の新聞のことを言っているのだろうと思って、萌恵はあごを引いた。
「うん、見た。お姉さんがここにいるってことは、病気が治って退院できたってことだよね?」
「もう昔の話よ」
イエスともノーともとれない曖昧な返答で、歯切れが悪い。
どうぞ、とドアを開ける遥香のそばを通って、萌恵が書庫の中へ入る。
この人には聞きたいことがたくさんある──。
室内は古い洋館の書斎みたいな落ち着きがあって、メルヘンの世界に憧れる年頃の萌恵は、うわあ、と無邪気に感嘆した。
「素敵なお部屋でしょ。女の子なら誰でも好きだと思う」
遥香は少女のような笑顔でそう言った。
「本がいっぱい」
「どれでも自由に読んでいいからね。だけどあなたたち、図書館に来たのは勉強のため?それとも、もっと別な理由?」
「それはその、最初はみんなで新聞を読もうってことになって。そうしたらボッチくんとかハカセくんが病気になっちゃって。何か変だよねって、マサトくんと2人で話してたんです」
それで、と萌恵は口をつぐんだ。
「学校で噂になってる『幽霊説』が浮上してきたわけね?」
言おうとしたことを遥香に言われて、萌恵はかるくうなずくだけにした。
「それ、半分だけ当たってる」
「えっ?」
血の気が引いていく音が聞こえそうなくらい、萌恵はその場に凍りついた。
涼しいのを通り越して、肝試し的な恐怖さえ感じる。
半分幽霊で、半分人間、とでも言うつもりなのだろうか。
「あの子たちみんな、普通じゃ体験できないことが経験できたんだって、すごく喜んでた」
遥香がなめらかにしゃべり出す。
男子3人の顔が萌恵の脳裏に浮かぶ。