おかしな熱中症-2
「ここのトイレだけ、なんか匂うなあ」
2階にある男子トイレ、その隣の女子トイレの出入り口、そこだけほかとは違うとくべつな匂いがすることを理人は突き止めた。
どこかで嗅いだことのある花の匂いだった。
「幽霊の匂いかな」
正体不明の香りは廊下にまで漂い、さらにたどって進んで行くと、洋風な感じの金具がついた白いドアがあらわれた。
プレートには『第4書庫』とある。
おかしいな。第4なんて縁起の悪い数字、ふつう使うかなあ──。
疑問を抱きながら、理人はそのドアノブに右手を伸ばした。
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端末の使い勝手がいいのか、それとも萌恵が賢いのか、どちらにしても探し物はすぐに見つかった。
2年前の7月20日の朝刊に、図書館の女性職員が館内の書庫で倒れて、そのまま病院へ搬送されたことが書いてある。
何かの発作で気を失い、発見当時はかなりの高熱が出ていたらしい。
彼女のその後の容態までは記述されておらず、無事に回復して退院できたのか、あるいは最悪の結果になってしまったのか、そこまではわからない。
「今井遥香さん、25歳。この人の顔、どこかで……」
白黒写真の彼女の顔を凝視したまま、萌恵はあごに手をあてて考え込んでしまった。
「どこかで……」
*
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「ここは、一般の人は立ち入り禁止だよ」
突然入ってきた小さな来訪者におどろく様子もなく、書庫にたたずむ大人の彼女はそう言った。
「すいません、間違えました」
少年はあわてふためく。
「きみ、根室理人くんだよね?」
「えっ?」
どうして名前を知ってるんだろう──。
「お姉さん、誰?」
理人の警戒心が相手にまでつたわる。
「わたしは、今井遥香。ここの職員だよ」
床を指差しながら遥香は言った。
もう片方の手には文庫本がおさまっている。
日課で読んでいる、女性向けの官能小説である。
「マサトくんは、ほかの2人とは雰囲気が違うね。なんでだろう」
ほかの2人とはおそらく、ボッチとハカセのことだろうと、理人はすぐにひらめいた。