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居場所
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居場所-1

「おい、隆一!今日はもうあがっていいぞ」
「わかりましたぁ!お先に失礼します!」
マスターの一声で、俺は今日のバイトを上がった。誰もいないロッカールームで着替えてると、誰かが入ってきた。見てみると、二ヶ月くらい前に入ったばかりの女の子だった。
「麻衣ちゃんもあがりなのかい?」
「あっ、瀬野さん!お疲れ様です。お客の出入りが一段落ついたから休憩に…」
この子は東雲 麻衣《しののめ まい》
今年、地方から上京したばかりの大学生だ。そのどこかあか抜けてない様子は、数年前の自分を思い出させた。

「瀬野さん、今日はなんかあるんですか?いつもなら週末はラストまで入ってるのに…まだ五時前ですよ」
「…用があってね。それより、麻衣ちゃんもうそろそろ戻らないとマスターに呼ばれるよ」
「あっ、そうだ!んじゃ、お疲れ様でした!」
麻衣ちゃんと喋り、俺はバイト先を後にした。

単車を走らせながら、今までを振り返っていた。四年…上京してからの生活はとても充実していた。初めて来た街、新しい友達、俺の新しい居場所は見つかった。輝いていたんだ…あの日までは…。
途中で花屋に寄り、花を買っていった。そこから一時間ほど単車を走らせて、俺は目的地にたどり着いた。なんの変哲もない曲がり角。ガードレールの向こうには砂浜と海が広がっている。夕日はもう沈み、空には星が輝き始めている。ガードレールの下には花が手向けられていた。
「悪いな。一日遅れちまった」そういって俺は買ってきた花をそこに置いた。

「そういえば松本から聞いたんだけどよ、田中のやつ、結婚するんだってよ。高校の時は一番もててなかったのにな」
俺は誰もいないこの場所で一人語り始めた。
「ゲンは、親父さんの後ついで酒屋の若社長だしよ。それに松本のやつは宝くじ当てやがったらしくてよ!この前みんなで飲みまくったらしいぜ。全部あいつのおごりにしてな」この一年の出来事を一つ残さず思い出して俺は語り続ける。
「真理奈のことはわからない。一番知りたいのにな…」

あんたが死ねばよかった!

真理奈のあの時の台詞がはっきりと浮かんでくる。あの時から、俺の心の時間は止まったままだ。

「ごめんなぁ、真理奈。ごめんなぁ、正人」
たった二人だった。最初何も知らないこの街で、俺はいつでも正人と一緒だった。馬鹿もやったし、喧嘩もした。痛い目を見たけど、夢も見た。

「本当に、ごめんな…正人」


なんで今日瀬名さんは早く帰ったんだろう。私は疑問に思っていた。
「麻衣ちゃん!お疲れ様!」
マスターが話しかけてくる。そういえば、瀬名さんは二年以上ここで働いているんだっけ。店長ならなにか知ってるかも…。
「あの、マスター。なんで瀬名さん今日早く上がったんですか?」
「友達の命日だよ。本当は昨日なんだけどね」
確か瀬名さんは地方の出身って言ってた。
「地元に帰ったんですか?」
「いや、地元から一緒に上京してきた友達のらしいよ。交通事故で亡くなったって」
「そうですか…」
事故で友達を…。私の周りにはいないが、そんなことになったらみんな悲しむに違いない。来週からは、もっと瀬名さんに明るく振る舞おう。意味もないやる気を持ちながら私は家路についた。


正人が倒れている。助けなくちゃ。正人に近付こうとするが、手足が動かない。瞼を閉じることも出来ない。


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