居場所-4
「二人とも建築関係に進みたかったから、一緒に上京したんだ」
「すごいですね…」
「正人には彼女がいてさ、真理奈っつうんだけど、真理奈は最初は上京に反対だったんだ。友達はほとんど地元に残ったから」
「瀬名さんは彼女は…?」
「ははっ、今はいないよ」
瀬名さんの言葉に少なからず私のテンションは上昇した。
「真理奈は俺に言ったんだ。正人を任せるって…」
瀬名さんの様子がおかしい。声が震えている。
「瀬名さ…」
「最後まで、聞いてくれるかい…?」
いつもとは明らかに雰囲気が違う。
「大学入ってからは浮かれまくってさ。二人で遊びまくってたんだ。あの日もさ…」
あの日…?あの日って…?
「朝方まで飲んでてさ、二人でそのままで単車で帰ったんだ。もう酔いも大分冷めてたから大丈夫だと思ったんだ…」
瀬名さんは私が始めからいないかのように話し始めた。それは、まるで懺悔のようにも聞こえた…。
「正人が前を走ってたから…だからあの時…正人は!正人には真理奈がいたんだ!俺が正人を誘ったから!誘ったから!」
「瀬名さん!?瀬名さんどうしたんですか!!」
瀬名さんは突然立ち上がり、私の肩を掴んだ。激しい痛みが肩を襲う。
「痛っ……」
「頼む。俺を一人にしないでくれ…」
瀬名さん肩に優しく手を重ねる。
「私はここにいます。だから、大丈夫ですよ」
瀬名さんは肩を掴んでいた手を離すと、自分の頭をおさえはじめた。
「瀬名さん!?」
「頭が…痛い」
瀬名さんをベッドに寝かせ、私はぬるくなったコーヒーを飲んで考えていた。
瀬名さんは今までずっと一人で悩んできたのだろう。私だって辛いときは友達に連絡をとったりする。
しかし、瀬名さんにはそれが出来なかったのだろう。事故とはいえ、目の前で友達を亡くす辛さは体験したことのない私には分からない。
寝室をのぞいてみると、微かな寝息をたてる瀬名さんがいた。
今まで、私の前では見せなかった感情。それを初めて見た時、私は守ってあげたいと思った。せめて瀬名さんが一人にならないように。
私では瀬名さんの居場所にはなれないのだろうか…?その思考は眠気によるまどろみで中断された。
もう、大学の講義など頭になかった私は、明日の(もう12時をまわったので今日なのだが)事など考えずに、眠りについた。
朝、目を覚ますと寝室にもう瀬名さんの姿はなかった。
リビングに戻ると、鍵と書き置きが残してあった。
(今日一日留守にします。出ていく時は戸締まりよろしく。マスターにはもう言ってあるので大丈夫です)
書き置きを読み終わった時、時計に目をやった。
もう十時を回っている。
私は急いで大学へ行く準備を整えた。しかし、焦っていても、頭の中では瀬名さんのことしか考えていなかった。
「瀬名さん…」
私は不安を感じながらも大学へ向かった。
街から電車で二時間半ほどの田舎。俺は自分の故郷にたどり着いた。
空からは太陽が容赦なく照りつける。初夏独特の梅雨と交じったむし暑さが俺を襲う。
しかし、不快ではない。この陽気が俺に思い出を運んでくれる。
俺は歩き出した。自分の過去と向き合うために…。
少しあるくとファミレスに着いた。昔と何も変わっていない。中に入ると、誰かの呼び声が聞こえた。そのテーブルへ向かうと、見知った顔がこちらを向いている。
「ここだ、隆一!」
「早いじゃないか、松本」
テーブルに座り、久しぶりに会った親友と話を交す。不思議なのは、外見は俺達両方年をとったのに、話す内容は昔と変わらない。バカばっかりな話。不思議だがとても心地がいい。
「んで、一体どうしたんだ。急に戻ってきてよ。彼女にでも振られたか?」
「今日、真理奈は何時ごろに仕事上がるか分かるか?」