居場所-3
帰りがけにコンビニで薬と食べ物を買っていく。明日は講義も遅いし、瀬名さんの家にお見舞いに行こう。
前に一、二度お邪魔したことがあったが、とても独り暮らしの男の人の部屋には見えないほど綺麗だった。
(下手したら私の部屋より綺麗かも…)
もし、瀬名さんを家に入れたときに、瀬名さんの部屋より汚かったらどうしよう…。
(ハッ…なんで私瀬名さんを家に入れることなんか考えてるんだろう!)
などと想像しているうちに、瀬名さんの住んでいるマンションにたどり着いた。
階段を上り、部屋へと向かう。
(306号室…でいいんだよね)
とりあえずインターホンを押してみる。しかし、返事はなかった。
(寝ちゃったのかな…どうしよう、もう一回押そうかな。けど迷惑かも…)
ガチャッ!!
「ひゃっ!」
いきなりドアノブが回り、驚いて声をあげてしまった。
「麻衣ちゃん?」
「お見舞いに来ちゃいました…」
麻衣ちゃんをソファに座らせて、キッチンに向かう。
「お茶とコーヒーどっちがいい?」
「コーヒーで!」
二人分のコーヒーカップを持って、テーブルの上に置く。
「店長には内緒にしといてね。今日仮病だってこと」
「本当に風邪じゃないんですか?」
「大丈夫だよ。全然平気さ」
確かに身体的には健康そのものだが、精神的には違っていた。しかし、そんなことで麻衣ちゃんを心配させるわけにもいかない。
「マスターから聞きました。昨日の早く上がった理由…」
「…そう…」
驚いた。口の固いマスターが麻衣ちゃんに教えたとは…。俺が話した時、マスターは我が事のように受けとめてくれた。事故にあい、居場所を失った俺は久しぶりに人の温かさを知った。あの時、マスターが親身に聞いてくれたときの顔が、今でも頭から離れない。
「正人さんて、どんな人だったんですか?」麻衣ちゃんの一言に、俺の脳は覚醒していく。あいつとの思い出が蘇り始めた。
私が正人さんのことを聞くと、瀬名さんはしばらく押し黙ったままだったが、コーヒーを一口飲むと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あいつは小学校から一緒でさ、中・高・大ってずっとダチだった。そこに写真立て掛けてあるだろ。真ん中の金髪が正人だよ」
言われて横にある写真立てを見てみると、瀬名さんと何人かの人が写っていた。七人ほどいる中、真ん中にいる金髪の人が正人さんだろう。とても柔和な顔付きをしている。
「隣にいるのが…?」
「うん、俺」
正人さんの隣に写ってる茶髪の男の子…。短めの髪を立てている明るそうな男の子。今と雰囲気は違うが、間違いなく瀬名さんだとわかった。